公爵家に忍び寄る者 ※クリス視点
■クリスティア=アンダーソン視点
「クリス様! 王宮及び女神教会から、すぐに救援に駆けつけるとの返答がありました!」
戻って来た使いの人が、そう言って執務室に飛び込んできた。
よし、これでギルバートとフェリシアをバックアップする体制は整えた。
後はクラウディア殿下を狙ってこの屋敷に向かっているヘカテイア教団の刺客を、全員返り討ちにするだけだ。
「モーリスさん、アンさん、それにハリード、期待しています」
「「「お任せください」」」
三人が、恭しく一礼した。
ハリードさんはともかく、モーリスさんもアンさんもギルバートが全面的に信頼を寄せる人達だから、大丈夫だろう。
「ウフフ……私の出番はちゃんとあるのかしら?」
そう言って、サンプソン閣下はレイピアの鞘を握りながらクスリ、と微笑む。
ギルバート曰く、この方もものすごく強いとの評価だから、間違いないと思う。
「……心配なのは、“メテオラの箱”だね」
とりあえず、王都で爆発があったのは広場方面と城門方面の二か所だけ。
これ以上はないと信じたいけど……。
「大丈夫ですよ。そのような魔道具、フェリシア様の師であるこの私が全て無効化してみせます」
そう言って小さな胸を張るのは、王国一の魔法使いであるリンジー=マリガン卿。
ギルバートと一緒に討伐に出た“破城槌”の異名を持つイーガン卿といい、彼の周りにはすごい人材ばかりが集結している。
もちろん、彼自身も誰よりもすごい人だけど、ね。
そして、そんなギルバートにボクも認められているんだと思うと、胸が熱くて、嬉しくてしょうがない。
「おのれ……っ! 王都でこのような真似をし、クラウディア殿下にも迷惑をかけるなど……! この私が、全て誅してくれる!」
「ええ!?」
突然、ニコラス王子がこの執務室内で剣を抜き、威勢よくそんなことを叫んだ。
ほ、本当に何を考えているんだよこの人は!
「フフ……ニコラス殿下、どうか剣をお納めください。
「クラウディア殿下……」
ボク達に『任せて』とばかりに目配せした後、クラウディア殿下がそう言ってニコラス王子をたしなめた。
すると王子も、まるで物語の主人公にでもなったかのような表情を浮かべ、クラウディア殿下を見つめる。
ハア……あの自分に酔いしれている顔、目障りなので今すぐ何とかしたい。
ギルバートとフェリシアが苦労するのも、すごくよく分かるよ……。
盛大に溜息を吐きながら、王子をジト目で見ていると。
「……皆様、来たようです」
「「「「「っ!?」」」」」
アンさんが静かに告げ、室内に緊張が走る。
そうか……いよいよ……。
「ですが……クフ、早速二人……いえ、三人を
そう言って、アンさんはニタア、と口の端を吊り上げた。
普段はあんなにも穏やかな彼女の意外な表情に、ボクは一瞬身を引いてしまった。
「ふむ……では、
「はい! 師匠!」
意気込むハリードと共に、モーリスさんがこの部屋から
あ、あはは……本当に、教団の侵入者達は一瞬で片づくんじゃないだろうか……。
「あーあ……この様子じゃ、私の分はなさそうね」
「くう……! せっかく弟子にいいところを見せようと思いましたのに……!」
残念そうに天井を見つめるサンプソン閣下と、悔しそうに肩を落とすマリガン卿。
そんな二人を見て、ボクは乾いた笑みを浮かべるので精一杯だった。
そして。
「皆様、終わりました。とりあえず、
「そ、そうですか……お疲れ様でした……」
ア、アハハ……こんなに早く片づけてしまうなんて、みんな本当にすごいね……。
「フフ……その捕らえた者に、会わせてもらってもいいですか?」
「かしこまりました。地下牢に入れておりますので、どうぞこちらへ」
モーリスさんに案内してもらい、ボク達は全員地下室へと移動する。
「この者です」
「そう……“リーゼ”、あなたなのね」
「っ! 殿下、ご無事でしたか!」
捕らえられた“リーゼ”という教団の侵入者は、クラウディア殿下を見た瞬間、鉄格子にしがみつきながら胸を撫で下ろした。
「ええ、私は無事よ。ギルバート様にはよくしていただいているわ」
「そうですか……殿下、早く帝国に帰りましょう。態勢を立て直し、次こそは……」
「ごめんなさい。私はあなた達と違い、ヘカテイア教に入信してはいないの」
「っ!? ど、どういうことですか!?」
驚くリーゼという女性に、クラウディア殿下は説明した。
自身が教団の信者ではないこと。
むしろ、ブリューセン帝国内から教団を排除するために王国……いや、ギルバートと手を結んでいること。
「……だから申し訳ないけど、私はあなた達と共に行くことはできない……いいえ、私はあなた達を切り捨てるの」
「そ、そんな……っ」
愕然とするリーゼという女性。
でも、その瞳はいつしか憎悪へと変わっていた。
「おのれ……おのれええええええッッッ! これまでこの私を……ヘカテイア様を謀っていたというのね!」
「…………………………」
「覚えておくがいい! オマエもこの国の連中と同様、ヘカテイア様によって! いえ! 私達の手によって無に帰すのよ!」
……怒り狂っている割には、やけに冷静な物言いに聞こえるね。
「アハハ、馬鹿じゃないの? オマエ達の企みは、全部ギルバートが阻止したよ。今頃、オマエを待っている連中もギルバート達に全て消されてるはずだから」
ボクはあえて煽るようにそう告げた。
こうすれば、調子に乗った彼女が何かを漏らすと考えて。
すると。
「あはははははははは! 本当に馬鹿! 確かに私達は全員オマエ達の手によって朽ち果てるけど、この王都にいる連中も道連れよ!」
「道連れ? どういうことさ」
「あはは! 今頃、王都の中心部にはいるはずよ! ヘカテイア様の御使い、“ティフォン”が王都を更地に変えてしまうわ!」
……やっぱり、切り札を隠し持っていたか。
だったら、こうしちゃいられない!
「皆さん! ここの守りを最小限に留め、すぐにギルバート達と合流しましょう! その“ティフォン”とかいう奴を倒すんです!」
「っ! ですがクリス様、坊ちゃまからはここの守備を任されています。それではクラウディア殿下をお守りすることも……」
「指揮の全権はボクに委ねられています! それに、その“ティフォン”を何とかしないことには、結局は同じです! だから!」
悩むモーリスさん達に、ボクは必死で訴える。
今はもう、一刻の猶予もないんだ!
「……かしこまりました。念のためアンを残し、我々は坊ちゃま達の下へまいりましょう」
「うん!」
ギルバート、待っててね!
今、ボク達が君の下に向かうから!
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