三人の王子の顛末

「これで、授業は終わりです」


 マリガン卿が午前の授業終了の合図を告げ、子息令嬢達は昼食を摂りに食堂へと向かい始める。


 すると。


「ウフフ……お帰りなさいませ、小公爵様、フェリシア様」

「クラリス殿下、お久しぶりです」


 クラリス王女が微笑みながら近づいてきたので、僕とシアは会釈をした。

 それにしても……。


 僕はチラリ、とクラリス王女の後ろ……というか、取り巻き達を見やる。

 うん、この二か月で本当に増えたなあ……。


「よろしければ、是非とも昼食をご一緒したいのですが、よろしいでしょうか? 色々と武勇伝・・・などもお伺いしたいですし」


 ふむ……どうやら、僕とシアが欠席していた理由も知っているみたいだな。

 確かに、王室にはヘカテイア教団に関して情報共有をしていたから、知っていてもおかしくはない、か。


 僕としても、この二か月間での学院での状況など、色々と話を聞いておきたい。

 特に、三人の王子とソフィアに関しては。


「シア、いかがいたしますか?」

「ふふ、私も久しぶりにクラリス殿下とお話しがしたいです」


 シアに尋ねると、彼女はニコリ、と微笑みながらそう答えた。

 あはは、僕の意図を汲み取ってくれたみたいだ。もう僕とシアは、完全におしどり夫婦だよね。


「ではクラリス殿下、僕達も是非ご一緒させてください」

「はい! では、まいりましょう!」


 昼食の同席について了承すると、クラリス殿下はパアア、と満面の笑みを浮かべた。

 そんなに僕やシアと昼食を共にしたかったんだろうか。


 そうして僕達は食堂へと向かうと。


「あ……」


 ちょうど同じタイミングで、一つ学年が上の第一王子と鉢合わせした。

 そもそも学年が違う上に、二か月間学院を休んでいたから、僕の中では三人の王子中一番影が薄い。


 それに、王太子を剥奪されてからというもの、とにかく鳴りを潜めていたからね

 要は、影が薄い(二回目)ってことだけど。


「ウフフ……お兄様、ごきげんよう」

「……クラリスか」


 ニタア、と口の端を吊り上げるクラリス王女に対し、第一王子はバツの悪そうな表情を浮かべた。

 どうやらこの兄妹の関係については、既に格付けが済んでいるようだ。


「私はこれから小公爵様、それにフェリシア様と食事をいたしますので……では」

「……ああ」


 僕達は第一王子と別れ、食堂の中へと入る。

 それにしても……第一王子の取り巻き、二人しかいなかったな。


 以前は王太子として、最も隆盛を誇っていたというのに、今じゃ見る影もない。

 まあ、全部自分の身からでた錆なんだけど。


「クラリス殿下、あちらの席をお使いください!」

「ウフフ、ありがとう」


 既に取り巻きの一人が席を確保していたらしく、クラリス殿下と僕達を席へと案内した。

 見ると、他の取り巻き達も、クラリス殿下に取り入ろうと必死な様子がうかがえる。

 おそらくは、後から取り巻きに加わった者達なんだろう。


 僕とシアには関係のない話だけど。


「ウフフ……では、色々とお話を伺ってもよろしいですか?」

「その前に、僕達が不在だった間のことについて、教えていただいても? さすがにあまりの周囲の変化に、僕もシアも戸惑っていますので」

「あら、そうですね。では、まずはそちらから……」


 そう言うと、クラリス王女は二か月の学院の様子について詳しく説明してくれた。


 まず、あの能力判定の後、王立学院はシアの話題で持ち切りだったらしい。

 曰く、『あれほど美しい魔法は、未だかつて見たことがない』というのが、子息令嬢達の感想とのこと。

 加えて、あの魔法がいかに難易度の高い魔法であるかを、マリガン卿がそれはもうつぶさに熱く説明したのだとか。


 あははー……愛弟子のシアの活躍が嬉しいからって、仕方ないなあ。

 だけど、よく考えてみたらマリガン卿といいサンプソン辺境伯といい、シアはやたらと年上女性に好かれるな。


 まあ、シアはあんなにも可愛くて優しくて、性格も最高なんだから、老若男女問わず好きになるのも当たり前だよね。


 そして、第二王子が働いた不正。

 クラリス王女が調査した結果、どうやら第二王子派の貴族家の親族であるあの教師が指示を受け、パスカル皇子をそそのかしてあんな真似をしたらしい。


 当然ながらこの事実を知った第一王妃から国王陛下にまで伝わり、激怒。

 実は僕達が復帰する一週間前まで、第二王子は謹慎処分を受けていたらしい。


 その間にクラリス王女は第二王子派の切り崩しにかかり、多くの貴族達をクラリス王女はへと鞍替えさせたようだ。

 小説と同様、水面下の根回しはさすがだな。


 パスカル皇子は、結局は第二王子がそそのかしたことが原因だとして不問となったものの、やはりあの醜態は子息令嬢達の目に余るものだったらしく、今では誰からも相手にされないくなっていた。


 ただでさえ実家であるベネルクス皇国から厄介払いされている身だというのに、ますます居場所がなくなったなあ。知らないけど。


「……あの女・・・については、何か目立った動きもない上に、女神教会の慈善活動に聖女として積極的に参加しているせいか、相変わらず王都の民衆達からは絶大な人気を誇っています」

「なるほど……」


 ふうん……あのエセ聖女、相変わらず裏表の顔の使い分けが上手いな。


「セシリー妃殿下、それにショーンお兄様は、そんな聖女とその後ろにいる女神教会の支持を何としてでも得ようと、かなりすり寄っているみたいです。今は、ショーンお兄様の婚約者にしようと、色々と画策していますね」

「ふうん……まあ、クラリス殿下が貴族達の支持を根こそぎ手に入れましたから、余計に連中の影響力にあやかりたいでしょうしね」

「ウフフ、それもこれも、ショーンお兄様の自業自得ですけど」


 そう言って、クラリス王女がクスリ、とわらった。


「それで、残るニコラス殿下はどうなったのですか? 特に、同じフレデリカ妃殿下の派閥同士となりますが……」

「今のところ、何の動きもありません。何より、お母様にくみしていた貴族達は、全て私の支持に回りましたし、今では義理で従者があてがわれている程度です」


 そう言うと、クラリス王女は少しだけ寂しげな表情を浮かべた。

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