氷結の薔薇姫
「♪」
王立学院へと向かう馬車の中、シアが
そんなに学院に行きたかったのかなあ……。
「シア、学院は楽しみですか?」
「? どうしてですか?」
僕の問いかけに、シアはキョトン、としてしまった。
あれ? 違うのかな……。
「い、いえ、すごく楽しそうに見えたものですから」
「あ……ふふ、それはそうです。だって今、私とギルは二人きりなのですから」
あー、そういうことか。
王都に帰ってきてからも、この一週間は仕事に追われていたり、リズとハリードが加わったこともあって二人だけの時間が減ってしまったからなあ……。
「ですから」
シアは席の端へと寄ると、ポン、ポン、と膝を叩いた。
ええと……これって……。
「そ、その……学院に到着するまでの間、膝枕はいかがですか……?」
顔を真っ赤にしあがら、シアは上目遣いでおずおずと提案してくれた。
そんなの、答えは『はい』か『イエス』しかない。
「是非! 是非よろしくお願いします!」
「ふああああ!?」
驚きの声を上げるシアをよそに、僕はすかさず横になり、シアの膝の上に頭を乗せた。
うわあああ……シアの太もも、温かくてすごく柔らかい……。
「ギル……ギル……」
僕の名前を何度もささやきながら、シアが僕の頭を優しく撫でてくれる。
その声が、感触が、温もりが、僕のこれまでの疲れを瞬く間に取り除いてゆく。
「シア……気持ちいい、です……」
「よかった……ギルはいつもすごく頑張っていますから、せめて私と二人だけでいる時は、身も心も休めてください……」
そんなシアの甘いささやきに、僕のまぶたがゆっくりと降りてくる。
そして。
「ギル……ゆっくり休んでくださいね……」
そんな彼女の包み込むような言葉を最後に、僕は
◇
――ギル……ギル……。
……誰かが、僕を呼ぶ声がする。
いや、これは
僕が誰よりも求める、世界一愛しい
その声に導かれるように、僕はゆっくりと目を開けると。
「あ……ふふ、起きました?」
そこには、慈愛に満ちた微笑みを見せる、最愛の
「あはは……はい、おかげさまで。ひょっとして、もう学院に到着しましたか?」
「はい。ですが、ギルがあまりにも気持ちよさそうでしたので、御者にお願いして遠回りしてしまいました」
そう言うと、シアがちろ、と可愛く舌を出した。
うわあ……可愛いなあ……!
「シア……」
気持ちを抑えられなくなった僕は、身体を起こしてシアを抱きしめる。
そして。
「あ……ちゅ……ちゅ……ん……」
その紅くて柔らかい唇を求めるように口づけをした。
「ん……ぷあ……ふふ、学院の目の前で、あなたと口づけをしてしまいました……」
「いいんです。こんな素敵なあなたがここにいるのに、気持ちを抑えて我慢してしまうことこそが、あなたへの冒涜です」
「ふあ……もう……ちゅ、ちゅく……ちゅぷ……」
しばらくシアの唇を堪能し、満足……どころか、もっともっとと求めてしまいそうになるけど、さすがに我慢した僕は、ようやく唇を離した。
「さあ、行きましょうか」
「はい……」
口づけによって顔を上気させ、とろん、とした表情のシアの手を取り、馬車を降りた。
だけど……はは、さすがに遅刻したから、生徒の姿がどこにもいないや。
「すいません……僕のせいでシアにまで迷惑をかけてしまいました……」
「何をおっしゃっているんですか。授業よりも、いつも頑張っているギルの疲れを癒すほうが大切です。それに……私があなたを癒すことができたのなら、それに勝るものはありませんから」
シアは自分の胸にそっと手を当てながら、優しい声でそう告げた。
どうしよう……何とか我慢して馬車から降りたのに、もうシアを求めたくなってしまった……。
「ふふ……さあ、教室にまいりましょう」
微笑むシアにそう言われてしまい、僕は諦めて彼女の手を取って教室へと向かう。
だけど……うん、学院の授業が終わったら、その時はもう一度、思う存分シアを堪能し、感じることにしよう。
「あう……もう、そんなに見つめられてしまいますと、私も我慢できなくなってしまいます……」
そう言って、シアが恥ずかしそうにしながらうつむく。
でも、その表情はすごく嬉しそうだ。
「仕方ありません、僕は大好きなあなたを永遠に見つめていたいのですから。それに、そのことでシアが我慢できなくなってしまったのなら、僕としてはそんなに嬉しいことはありません。むしろ、どんどん求めてください」
「ふあ……も、もう……ギルのばか……大好き……」
ますます顔を赤くしたシアが、口を尖らせながら、消え入りそうな声でそんなことを呟く。
ハア……尊い、尊すぎる……。
そうして、僕はかろうじて自分のどうしようもないシアへの欲求に耐えながら、授業中の教室へとやって来ると。
「「「「「っ!?」」」」」
マリガン卿と生徒全員が僕達に注目した。
そして。
「「「「「ひょ、“氷結の
……何人かの生徒が、そんな二つ名をポツリ、と呟いた。
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