学院へ通う朝

「くあ……!」


 朝になり、目を覚ました僕は身体を起こして伸びをする。

 それにしても……帰ってきてからのこの一週間、地獄のようだったな……。


 というのも、溜まっていた仕事の量がすさまじい量で、僕は王立学院に通うことすらできずに、ひたすら仕事の整理に追われていた。

 シアもわざわざ僕のために仕事に付き合ってくれて、同じく学院には通っていない。


 だけど、仕事については昨夜ようやく全て片づき、今日から僕達は学院に復帰する。


「はは……あの連中・・・・、今頃どうなっているだろうな」


 カーテンの隙間からのぞく窓の外を見やりながら、僕は口の端を吊り上げる。

 もちろん、あの連中・・・・というのは三人の王子とエセ聖女のことだ。


 剣術の実技で僕が叩きのめしたパスカル皇子もそうだし、審判を務めた教師に指示して不当な判定をさせた第二王子、それに魔力の実技でシアに圧倒的な差を見せつけられたソフィアも、この二か月以上の間、肩身の狭い思いをしたに違いない。


 ひょっとしたら王室や女神教会の力を借りて、周りの子息令嬢達に何も言えないように仕向けているかもしれないけど。


「ま、どうでもいいか」


 あんな連中のことで頭を働かせるのは、無駄でしかない。

 そんなことより、久しぶりのシアの制服姿、思う存分堪能させてもらうことにしよう。


 などと考えていると。


 ――コン、コン。


「ギルバート様、おはようございます!」


 ノックして部屋に入って来たのは、アンの指導の下、侍女見習いとして日々頑張っているリズだった。


「やあ、おはようリズ」

「朝食の準備が整っておりますので、食堂へお越しください」


 そう言って、ペコリ、とお辞儀をするリズ。

 年齢は僕やシアの一つ下ということで、来年にはこの国の基準で成人を迎えることになる。


 ふむ……その時は、せっかくだから彼女も王立学院に通わせることにしようか。

 アン曰く、リズはかなり優秀なようだし、将来のことを考えても彼女にとってそのほうがいいだろう。


 それに。


「(ジー……)」

「はわ!? ギルバート様、どうしました!?」


 ジッと見つめる僕の視線に恥ずかしくなったのか、リズは顔を真っ赤にして慌てだした。

 ……僕達よりも年下なのに、その……妙に発育がいいんだよなあ……。


 もちろんシアだって、すごくスタイルがいいんだけど。


「いや、何でもない。それじゃ、すぐに支度して向かうよ」

「は、はい! では、失礼します!」


 扉の前でもう一度ペコリ、とお辞儀をし、リズは部屋を出て行った。


 ということで、僕は手早く支度を済ませ、シアの部屋に向かう。


 ――コン、コン。


「シア、おはようございます」

「ギル、どうぞ」


 ノックして、扉の外から声をかけると、部屋の中からシアが了解してくれた。

 扉を開け、部屋の中へと入ると……おおおおお……!


「ふふ、おはようございます」


 既に制服に着替えたシアが、アンにその綺麗なプラチナブロンドの髪をくしを当ててもらいながらニコリ、と微笑んだ。

 もちろん僕は、そんな制服姿の彼女があまりにも新鮮で、感嘆の声を漏らしてしまう。


「坊ちゃま、朝から見惚れるのはいいですが、フェリシア様に何かお言葉はないのですか?」

「ハッ! そ、そうだった……シア、今朝もとても素敵ですよ」

「ふあ……ありがとうございます……その、嬉しいです……」


 シアは頬を赤く染め、口元で両手を合わせながら顔を綻ばせた。

 そんな仕草も、僕の心をときめかせるには充分すぎる。


「フェリシア様、終わりました」

「あ、ありがとう、アン」


 鏡に映るシアを見ながら、満足げに頷くアン。

 もちろん僕も、シアの美しさには満足……いや、そんな言葉では言い表せないほど至福だ。


「ではシア、一緒に食堂に向かいましょう」

「はい!」


 僕はシアの手を取り、部屋を出て食堂へと向かった。


 ◇


「では、行ってくるよ」

「ふふ、行ってきます」

「「「行ってらっしゃいませ」」」


 モーリス、アン、それにリズに見送られ、僕とシアは馬車に乗り込む。

 あ、そうそう。


「アン。リズの指導に当たって、王国の歴史などのバルディリア王国では学ばないようなものについても教えてくれないか? 必要なら、専属の家庭教師をつけてくれて構わない」

「かしこまりました」

「ギ、ギルバート様、それはどうしてでしょうか……?」


 僕の言葉にアンが恭しく一礼し、リズが戸惑いながら尋ねた。


「来年になったらリズも十五歳になるからね。僕達と同じように、君も王立学院に通うんだ」

「はわわわわ!? わ、私がですか!?」


 驚きの声を上げるリズに、僕は頷く。

 王立学院には貴族家の子爵令嬢という条件があるが、そんなものはブルックスバンク家の権力をもってすれば、とうとでもなるしね。


「ふふ……でしたら来年からは、リズも私の後輩になりますね」

「そ、そんな、フェリシア様の後輩だなんて、光栄すぎます!」


 戸惑いを見せながらも、リズはまんざらでもないようだ。

 その証拠に、どこか夢見がちな表情になっているし。


 僕とシアは、そんなリズを見て微笑ましく思いながら、学院へと馬車を走らせた。

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