我が家への帰宅
「ハア……ようやく帰って来たな」
レディウスの街を発ってから二週間。
馬車の車窓から前を望むと、王都を取り囲む城壁がようやく姿を現した。
かれこれ二か月近く留守にしたから、その……モーリスもみんなも、ものすごく仕事を押し付けてくるんだろうなあ……ハア、逃げたい。
「あ、あれがこの国の首都なんですね……!」
僕の前に座るリズが、王都を眺めながらオニキスの瞳をキラキラさせている。
あはは、まるで王都から初めて出た時の、シアの瞳みたいだな。
「そうだよ、これからリズは王都で僕達と一緒に生活していくんだ。文化や食べる物が違ったりするから慣れるのに時間がかかるかもしれないけど、それでも、毎日を楽しく過ごしてもらえると嬉しいかな」
僕はリズに向けてそう言うと、ニコリ、と微笑んだ。
この帰りの道中の二週間で、僕達は随分と打ち解けた。
最初はリズも緊張したり初めてのことばかりで戸惑ってはいたけど、今ではすっかり慣れたものだ。
特にリズは、これからは兄であるハリード同様、僕の部下兼侍女見習いとなることからも、逆に上下関係はしっかりしておかなければいけないから、僕の言葉遣いなどもアン達に対するものと同じものにしている。
王都に着いたら、早速アンにリズを預けることにしよう。
「お、俺は教団にいた時からどんなところでも寝られますし、何でも食べられますから心配いりません!」
「オマエはいいから前を向いて馬車を運転しろ」
全力で尻尾を振りながら、よそ見をして会話に割り込んでくるハリード。
全く……どうしてこうなった?
「ふふ、人数が増えて賑やかで楽しいですね」
「そうですね」
僕の膝の上に乗るシアが、リズとハリードを交互に見やりながらクスリ、と微笑む。
いや、確かに賑やかにはなったけど、僕としてはその……シアと二人きりがいい……何て言ったら、心が狭いとシアに幻滅されてしまうだろうか……。
そう思っていると。
「(でも……屋敷に戻ったら、あなたと二人きりになりたいです……)」
「! は、はい!」
耳元でシアにそうささやかれ、僕は嬉しさのあまり上ずった声で返事をした。
◇
「そういうわけで、モーリス、アン、二人をよろしく頼む」
「「かしこまりました」」
屋敷に到着するなり、僕はモーリスとアンに二人を紹介し、指導を頼むことにした。
ふふふ……ハリードよ、モーリスに死ぬほどしごかれるといい。
「リズ、君はこうやって動けるようになってからまだ二週間しか経っていないんだ。無理はせず、仕事はゆっくりでいいからね」
「は、はい……ありがとうございます……」
リズにそう忠告すると、彼女は褐色の頬を赤らめて頷く。
ウーン、打ち解けていると思ってはいるんだけど、時折こうやって恥ずかしそうにするんだよなあ……。
もう少し仲良くなって、気安く接してくれるほうが僕としてはやりやすいんだけど。
「(……坊ちゃまは、ずっとこんな感じなんでしょうか……?)」
「(そうなの……このままでは心配です……)」
「「ハア……」」
シアとアンの二人が小声で話していたかと思うと、大きな溜息を吐いた。
一体どうしたんだろうか……。
「と、とにかく、今日は帰宅したばかりなので、みんなゆっくり休んでくれ。それと、夜にはリズとついでにハリードの歓迎会をするからそのつもりで」
「っ!? わ、私達の歓迎会ですか!?」
僕の言葉に、リズが驚きの声を上げた。
ハリードに至っては……うん、そんな目で見つめるな。キモチワルイ。
「そうだよ。これから僕達はブルックスバンク家の
「あ、ありがとうございます……! ありがとうございます……!」
「ありがとうございます!」
ぽろぽろと涙を
……まあ、本当は祝うのはリズだけでいいんだけど、ハリードも混ぜてやらないとリズが悲しむからな。ちゃんと妹に感謝しろよ。
「さて……そういうことだから、みんな夜まで解散だ。僕もそれまで、部屋でゆっくり……「坊ちゃま」……っ!?」
シアの手を取って屋敷の中へ入ろうとした僕を、モーリスが呼び止めた。
ま、まさか……。
「坊ちゃまがご不在の間、見ていただかなければならない業務が溜まっておりますので」
「……本気で言っているのか?」
「当然です。さあ坊ちゃま、まいりましょう」
結局僕はモーリスに拉致され、夜までの間、執務室に閉じ込められることになってしまった……。
まあでも。
「ふふ……ギル、
愛おしい
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