教団の本性

「坊ちゃま、こちらも片づきましたぞ」


 褐色イケメンの後頭部を思いきり殴って意識を奪った僕に、ゲイブが飄々ひょうひょうとしながら声をかけてきた。


「ああ……だが、せっかく羽を伸ばしてもらおうと思ったのに、すまなかったな」

「ハハハ、何をおっしゃいますやら。この程度、むしろ酔い覚ましにはちょうどよかったですぞ。なあ、お前達」

「「「「はい!」」」」


 笑いながら告げるゲイブに、部下の騎士達は笑いながら頷いた。

 あはは、さすがは王国一を誇るブルックスバンク家の騎士達だ。本当に頼もしい。


「それにしても……」


 僕は、氷漬けにされた褐色イケメンの右手にある竹筒を見やる。

 あの竹筒から伸びている紐、おそらく導火線だよな……。


 コイツ、仲間ごと宿屋を吹き飛ばすつもりだったのかよ……。


「さて……念のため、他に仲間がいないか、下の階も確認を頼む」

「「「「はっ!」」」」


 僕の言葉を受け、騎士達が素早く階段を降りていった。


「シア、こんな夜中になってしまいましたが、眠くはありませんか? 後は僕達で片づけておきますので、部屋で休んでは……」

「ふふ、大丈夫です。むしろ目が冴えてしまいましたので、このままあなたのお手伝いをさせてください」


 シアにそう声をかけたものの、彼女は微笑みながらかぶりを振った。

 そのせいでシアの陶磁器のような白い肌が荒れてしまったらと思うと、逆に心苦しくなってしまう……。


 すると。


「すいません! 坊ちゃま、フェリシア様、すぐに来ていただけますでしょうか!」


 下の階から騎士の叫ぶ声を聞き、僕とシア、それにゲイブは慌てて階段を降りる。


「どうした!」

「はっ! どうやらあの連中、他の宿泊客を殺害して回っていた模様でして、かろうじて数名息のある者がおります! もしよろしければ、フェリシア様の回復魔法で治療いただけると……」

「分かりました!」


 騎士が言い終わるのを待たずに、シアはすぐに回復魔法をかけていく。

 すると、息があった者はすぐに完全回復し、苦悶の表情が穏やかなものに変わった。


「……救えたのは、これだけですか……」


 シアがそう呟くと、悔しそうに唇を噛む。

 僕も、教団の連中がまさかここまでするとは思わなかった。


「シア……申し訳ありません。これは連中を甘く見ていた、僕の失態です」

「っ! ち、違います! 悪いのは非道を行ったヘカテイア教団であって、ギルは悪くありません!」


 僕がそう言って拳を握りしめると、シアは必死に否定した。

 だけど……連中が来ることが分かっていたのだから、最初から最悪の事態も考慮に入れておくべきだったんだ。

 それさえなければ、この宿泊客達がこんな目に遭うこともなかったんだ……。


「坊ちゃま、過ぎたことを気にしても仕方ありません。坊ちゃまがなすべきことは、二度とこのようなことがないようにすること……つまり、こんな非道な真似をしたヘカテイア教団を、根絶やしにしてやることです」

「ゲイブ……」


 鬼神のような表情をしたゲイブの言葉に、僕も心を奮い立たせる。

 はは……相変わらず僕の師匠・・・・は、本当に手厳しいな。


 思えばモーリスやゲイブ、それにアンも、父上と母上が亡くなってからずっと、こうやって厳しくも優しく僕を育ててくれたな……。

 本当に、この家族・・には感謝しかない。


「……ゲイブの言うとおりだ。僕が今すべきことは、こんなことが起こらないように、ここで全てを終わらせてやることだ。そして、王国に足を踏み入れたらどのようになるか、思い知らせてやることだ」

「そのとおりですぞ」


 ゲイブは、満足そうに頷く。

 それは、僕を見守っているシアも。


「さあ、捕らえた連中から話を聞き出すとしようか。そして、自分達が行った罪深い行為に、報いを受けさせてやる」


 そう告げると、僕は犬歯を剥き出しにして、不敵な笑みを浮かべた。


 ◇


「…………………………」


 僕達は今、ようやく目を覚ました褐色イケメンを無言で見下ろしていた。


 なお、他の四人については全員の歯を叩き折って縛ってある。

 特に、連中は歯の中に自殺用の毒薬を仕掛けてあったからね。簡単に死なせるわけにはいかない。


 コイツ等には、生きていることすら後悔させ、絶望と苦しみの中で死を与えてやる。


「さて……それじゃ、オマエに色々と聞きたいことがあるんだが……」

「…………………………殺せ」


 僕の問いかけを無視し、褐色イケメンは顔を背けてそんなことを言い放つ。

 相変わらず、立場が分かっていない奴だ。


「グ……ッ!?」

「オマエが死のうがどうしようが、そんなことは興味ないんだよ。それより、このレディウスの街に入ったオマエ達の仲間は何人いる?」

「…………………………」


 思ったとおり、答える気は一切ないようだ。

 なら……別の方法・・・・で揺さぶってやる。


「……言っておくが、あんな教団に忠義を尽くしたところで、得られるのは裏切りだけだぞ?」

「…………………………」

「ヘカテイア教団は『浄化』した上で信者のみ復活して幸せになるなどと言っているが、そんな未来はあり得ない。ましてや、死者はおろか病に・・苦しむ者・・・・も、永遠に救われることはない」

「…………………………黙れ」


 はは、ようやく反応を示したな。

 そうだよな、オマエがヘカテイア教団直属の暗殺者として仕えているのは、不治の病・・・・に苦しむ妹を救うために……教団から与えられる薬を手に入れるために、自らの手を汚しているんだからな。


 だがな。


 そんなオマエを、僕は今から絶望の底に叩き落としてやる。


「知っているか? ヘカテイア教団というのは、自分達の信徒という名の使い捨てのを手に入れるため、卑劣な手を使っていることを」

「…………………………」

「例えば、いわゆる薬物を使っての洗脳や、家族や恋人など、大切な者達を人質にするなんてことは日常茶飯時。中には、信徒の家族をわざと病にさせたりもするんだ」

「っ!?」


 僕の言葉に、褐色イケメンは目を見開いた。

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