奪われる側の気持ち
「例えば、いわゆる薬物を使っての洗脳や、家族や恋人など、大切な者達を人質にするなんてことは日常茶飯時。中には、信徒の家族をわざと病にさせたりもするんだ」
「っ!?」
僕の言葉に、褐色イケメンは目を見開いた。
まあ、そうだよな。
これまでコイツは教団の言葉を信じ続け、実は妹の不治の病がでっち上げで教団によって
「嘘だ! 教団が、そのような卑劣な真似をするはずがない!」
「何を言っている。オマエ、ついさっきまで自分がしたことを忘れているのか? 自分達の……教団の都合のために何の罪もないただの宿泊客の命を奪っておいて、それが卑劣な真似でないなら何だと言うんだ」
「…………………………」
僕に正論で返され、褐色イケメンは押し黙る。
「言っておくが、ヘカテイア教団がそういった真似をしてきたことを、僕達は既に調査をして確認済みだ。もちろん、証拠だってあるぞ」
僕は、あらかじめ用意しておいた
「あ……これ、は……」
「何だ、見覚えがあるのか? だったら、これを飲んでいる奴に早く忠告してやらないとな。『これは
僕はわざと
どんなにこのことを苦しんでいる妹に伝えたくても、僕達に捕まっている以上、それを伝える
褐色イケメンにとって、これほど口惜しいことはないだろうな。
「……もう一度聞く。レディウスの街に入ったオマエ達の仲間は何人いる?」
「…………………………」
「別に言わなくてもいいぞ? そうすれば、大事な者が毒によって死ぬだけだ……いや、オマエが死ねば、わざわざソイツを生かしておく必要もない。すぐにでも
「っ!?」
褐色イケメンは、拘束されながらも身じろぎしながら暴れる。
そんなことをしても、どうしようもないのに。
「まあ、オマエの妹が助かる方法は一つだけだ。洗いざらい話し、少しでも解放されるように僕達に媚び
はは、プライドの高いコイツにとって、これは屈辱だよな。
だが、ここでこの男の心をへし折っておかないと、それこそ連中を叩きのめすための情報を引き出せなくなってしまう。
たとえシアに幻滅されてしまったとしても、それでも……ここで、僕が温情を見せるわけにはいかないんだ。
僕は、シアが無事でいられるように……これから先のシアの未来が、幸せなものであるために。
すると。
「……分かった。全て話す」
ようやく、この褐色イケメンの心が折れたようだ。
それからのこの男の態度は素直なものに変わり、このレディウスの街にいるヘカテイア教団の連中の構成、特徴、目的などに加え、本部であるバルディリア王国の情勢、隣国ブリューセン帝国の情勢、全てを語ってくれた。
もちろん、僕はコイツの言葉を全て鵜呑みにするわけにはいかない。
その情報が正しいかどうか見極める必要があるが、少なくともこちらでつかんでいる情報や僕の前世の記憶と照らし合わせても
それより。
「……まさかブリューセン帝国が、そこまでヘカテイア教団に支配されていたなんてな」
「ですな……」
僕の言葉に、ゲイブが重々しい口調で頷く。
これは、いよいよもって王国の危機だ。
小説の中では、聖女であるシアがラスボスを倒して平和になるエンドだが、当然、そこに至るまでに王国で少なからず被害に遭う。
しかも、平和になった後の世界については小説では明確に言及していないんだ。
その後の復興などを考えると、本当にできる限り被害を最小限に留めないと。
最も泣くことになるのは、他ならぬ民衆なのだから。
「な、なあ……俺は知っていることは全て話した。これで、俺を解放してくれるのだろう……?」
最初の頃のクールな様子とは打って変わり、褐色イケメンは泣きそうな表情で、縋るようにそう懇願する。
……まあ、この男は妹が大切なあまり、悪にすら平気で手を染めてしまうような奴だ。小説の中でも、シアの回復魔法と解毒魔法によって妹の命が救われたことで、
その妹の命が、今まさに僕の手に委ねられてしまっているんだ。こんな表情になってしまうのも頷ける。
だが。
「駄目だ。僕はまだオマエを信用できない。なので、オマエの妹の所在を教えれば、その後で考えてやる」
「っ!? は、話が違うだろう!」
「オマエが何を言っているのかは知らないが、僕はそんな話とやらをした覚えはない。僕はただ、『洗いざらい話し、少しでも解放されるように僕達に媚び
「あ……あああああ……っ!」
僕の言葉に、褐色イケメンはとうとう泣き崩れる。
オマエは人の命を……幸せを、妹のためだと
「ゲイブ。この男が逃げられないよう、監禁しておいてくれ」
「はっ!」
指示を受けたゲイブが褐色イケメンの襟首をつかみ、引きずってどこかへと連れて行った。
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