闇夜の侵入 ※???視点

■???視点


「……ここに、その聖女・・とやらがいるのか」


 レディウスの街の大通りにある、ひと際大きな宿屋の前に立ち、俺はポツリ、と呟く。


 司祭様が言うには、聖女・・はヘカテイア教団が施した呪いにより、その能力の一切が封じられており、そこいらにいるただの女と変わらない……いや、魔法が一切使えない分、それよりも劣るだろうとのこと。


 そんな女を始末するだけなのに、司祭様はどうしてこんなに団員を揃えたのだろうか……。


「ハハ、こんなところまで遊びに来たただの貴族を二人始末するだけなんて、今回は楽な任務だな」

「全くだ。それにしても、マージアングル王国というところは、こんなにも緩いのだな。仮にも貴族が宿泊しているのなら、騎士が周辺警護をしていてもおかしくはないのに、一人もいないんだからな」


 団員達が、表情を弛緩させながら軽口を言い合う。

 確かに皆の言うとおり、こんな楽な仕事はないだろう。


 だが……妙に引っかかる。

 騎士達が警護をしていないこともそうだが、司祭様がわざわざ俺を含めた手練れの団員を五人も差し向けたんだ。

 それはつまり、今回の標的がそれだけ警戒すべき相手だということ。


 なら、俺は必要以上に警戒しておくことにしよう。

 俺は……こんなところで倒れるわけにはいかない。


「よし……行くぞ」


 小隊長の合図と共に、俺達は宿屋の内部へと侵入を開始する。

 既に時刻は夜中の三時を過ぎたあたり。最も寝静まっている時間帯だ。


 俺達は一部屋一部屋確認していき、標的である貴族と聖女・・の部屋を探した。


 なお、違う部屋だった場合には、騒がれたりしないように全て息の根を止める。万が一失敗して、我々の存在を王国に知られるわけにはかないからな。

 そのためには、たかが宿泊客の命など安いものだ。


 そして。


「……残るは三階、だな」


 一階と二階の捜索と始末を終えた俺達は、上へと続く階段を見上げる。

 この宿屋は三階建ての構造だから、残すは上の階のみだ。


「……行くぞ」


 小隊長を先頭に、俺達は慎重に階段を上る。


 すると。


「「「っ!?」」」


 それは、一瞬の出来事だった。

 突然小隊長ともう一人の足元が凍り、首から上を残して全身が氷と化した。


 顔は紫色に変色してしまってはいるものの、かろうじて息はあるようだ。


「気をつけろ! 手練れの魔法使いがいるぞ!」


 俺の言葉で、残る二人の団員が一斉に階段より後ろに飛び退く。

 だが……このままでは、三階へと上がることは難しい。


「クソッ……! 簡単な仕事じゃなかったのかよ……!」


 団員の一人が悪態を吐いているが、そもそも簡単・・などとは小隊長はおろか司祭様も、一言も言っていない。

 ……いや、むしろ警戒しているからこそ、俺達を五人も向かわせたのだから。


「今さらそんな愚痴を言っても始まらんだろう! とにかく、別の方法・・・・で三階を目指すぞ!」


 俺達は散開し、各々で三階へと向かう。

 同時に向かったところで、魔法の餌食になるのなら、的は絞りにくくしたほうがいい。


 なので、俺は二階の客室から壁伝いに三階を目指す……っ!?


 ――ドオオオオオンンッッッ!


 この音と振動……どうやら、団員の一人が床を破壊したようだ。

 まあ、既に俺達の存在が見つかってしまった以上、今さら隠れる必要はない、か。


 おっと、俺もこうしてはいられない。

 早く三階へと向かわないと。


 壁を器用によじ登り、三階の客室の窓を割って中へと侵入する。

 どうやらここには誰もいないようだ。


「グハッッッ!?」


 団員の一人の悲鳴が、外の通路から聞こえてきた。

 おそらくは、床を破壊した団員だろう。


 瞬く間に三人の団員がやられたことを踏まえると、ここで一旦引き返すほうが得策だ。

 だが、口を割らないとはいえ団員が捕らえられた以上、司祭様の明日からの布教活動・・・・に支障が出る可能性が高い。


 ……仕方ない、最低限の口封じだけはしておくか。


 そう考えた俺は、懐から爆薬の入った竹筒を取り出す。

 これで、捕らえられた団員諸共、全て破壊する。


 俺は導火線に火をつけると、部屋から飛び出して一瞬で状況を把握す……っ!?


「ガッ!?」


 突然、後頭部に強い衝撃が走る。

 思わずよろけ、俺は朦朧もうろうとする意識の中振り返ると……。


「あー……やっぱり・・・・貴様がいたか」


 巨大なランスを持った少年のような男が、複雑な表情をしながら見下ろしていた……って、そ、そうだ! 竹筒は……っ!?


「ふふ……本当に物騒ですね」


 いつの間にか、竹筒はおろか俺の手までもが氷漬けにされており、これでは爆破は不可能だった。


 そして、窓からのぞく月明かりに照らされた少女が、クスリ、と微笑む。

 そんな彼女の、まるで女神・・のような美しさに、俺は思わず見惚れてしまった。


「……いつまでも僕のシア・・・・を見るな」

「グッ!?」


 怒りの形相を見せる少年にランスのつかで思いきり殴られ、俺はここで意識を失った。

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