預けられる背中
「ここまで来ますと、かなり自然が豊かですね」
シアは車窓から外の景色を眺めながら、興味深そうにそう呟いた。
王都を発ってから今日で十三日目。
そろそろ目的地であるレディウスの街に到着する頃だ。
「そうですね……ですが、ここは王国とブリューセン帝国との国境付近。王都からも離れ、治安も悪くなっております。ここからは、気を引き締めていきましょう」
「はい!」
僕がそう言うと、シアは胸の前で両手の拳を小さく握って気合いを入れる。
その仕草、最高に可愛い。そして、何気にお気に入りの仕草だったりする。
すると。
「……坊ちゃま、来たようです」
馬車の窓を叩き、ゲイブが告げた。
僕は車窓から前を眺めると……はは、なるほど。
シアにそんな話をした後にやって来るなんて、どれだけタイミングがいいんだよ。
「ギル……?」
「どうやら、この辺りにいる賊が現れたようです。おそらくは、僕達を狙ってのものでしょう」
見る限り、賊の数は三十人といったところか。
こちらがゲイブを含めた護衛の騎士が五人。それに僕を加えて六人だけど……まあ、話にならないな。
馬車の前に立ちふさがるように、賊達は横に展開する。
そして、そのまま僕達を取り囲んだ。
「シア、少しここで待っていてくださいますか?」
「ギル! 私も!」
「あはは。こんな雑魚相手に、あなたの手を煩わせられません。ですので、終わったら僕を癒してくれると嬉しいですね」
「あう……わ、分かりました。ですが、少しでも危ないと感じたら、その場合は私も戦いますから!」
シアはやる気を見せてそう言うけど……まさか、絶対にそんな展開にはさせられない。
だって、それってつまり、僕がシアの前でカッコ悪いところを見せるってことだからね。
こんな連中はサッサと片づけて、シアに褒めてもらうとしよう。
「坊ちゃま」
「ああ、すまない」
ゲイブが馬車の横に一頭の馬を横付けすると、僕はそれに飛び乗る。
もちろんこの馬には、僕のランスと盾が備え付けられていた。
「ハハハ! あの連中、無謀にも突っ込んできましたぞ!」
「はは、だったら思う存分蹴散らしてやろう。ゲイブ、行くぞ!」
「承知!」
残りの騎士達に馬車の護衛を任せ、僕とゲイブは賊目掛けて一気に突撃する。
「ギャハハ! なんだアイツ等! たった二騎で挑んできやがったぞ!」
「オイオイ! コッチは三十人いるんだぞ!」
賊達は、僕達を指差しながら
まあ、多勢に無勢ってことで余裕だと思っているんだろうが、残念だったな。
「おおおおおおおおおおおッッッ!」
雄叫びを上げながら、曲刀を掲げて笑っている賊の一人へとランスの切っ先を向け、馬を走らせる。
賊も、僕達を返り討ちにしようと向かってきた。
だけど。
――ドンッッッ!
「「「「「っ!?」」」」」
僕のランスが賊の乗る馬の首を弾き飛ばし、そのまま賊本人の胴体を貫いた。
さあ、まず一人。
「く、くそっ! テメエ等……っ!? げ……げげ……」
「遅い」
叫んだ賊の口の中にランスを突き刺し、延髄へと突き抜ける。
その後も、三人、四人と刺し貫いてゆき、次々と地面へと転がり落ちた。
「ハハハ! 坊ちゃま遅いですぞ!」
「……いいんだよ。よっと」
五人目を屠った頃には、ゲイブは既に十人近くを叩き潰していた。
まあ、僕のランスとゲイブのウォーハンマーじゃ、そもそも武器の特性も違うんだから仕方ないよね。
「それで? 残りはあと半分ってところか」
「大したことはありませんでしたな」
僕とゲイブは武器を構え、
その時。
「っ! あれは……」
小高い丘から、新手の賊が三十人程現れた。
その賊の中央にひと際偉そうな奴が一人いる。どうやらアイツが賊の頭領のようだな。
「じゃあ、あの連中も……って!?」
突然、馬車の窓から細く綺麗な手が伸び、丘にいる賊に向けて氷結系魔法が放たれた、んだけど……。
「うわあ……」
あっという間に、賊三十人分の氷の彫像が出来上がった。
は、はは……やっぱりシアの魔法は規格外だな……。
「ハハハ! これは我々も負けてはいられませんな!」
「そうだね!」
それから二人で残る賊を蹴散らし、僕は馬車へと向かう。
「シア、驚きましたよ……」
「そ、その……いかがでしたか……?」
僕はシアがもっと自慢するかと思ったけど、彼女は逆に不安そうにおずおずと尋ねる。
ああ……そうか……。
シアは、自分も僕と一緒に戦えるのだと……隣に立てるんだと、それを証明したかったんだな……。
「さすがはシアです。ハッキリ言って、魔法において王国ではマリガン卿を除けば右に出る者はいません」
「で、では……」
「はい……これからも、僕の隣で一緒に戦ってくださいますか?」
「! は、はい!」
僕のその一言で、シアはパアア、と咲き誇るような笑顔を見せた。
そうだ、僕は王都を発つ時に、シアを守り抜くのだと改めて誓った。
でも……あはは、彼女は
なら、僕こそいい加減に考えを改めないと。
シアは、互いに背中を預けられる、最高のパートナーなんだということを。
「ですから、これからよろしくお願いしますね」
「ふふ! はい!」
僕とシア、互いに笑顔で頷き合った。
そして。
賊を蹴散らした後、さらに進むこと三時間。
――僕達は、目的地であるレディウスの街に到着した。
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