パスカル皇子との剣術試合
「さあ、次は実技です。シア、行きましょう」
「はい!」
僕はシアの手を取り、一緒に実技の会場となる訓練場へと向かう……んだけど。
「え、ええと、その……フェリシア様も実技に参加なさるのですか?」
「? はい、そうですが……」
クラリス王女におずおずと尋ねられ、シアがキョトン、とする。
あー……確かに可憐なシアが、試合に挑むと勘違いしてしまっているのか……。
「だ、大丈夫なのですか!? もし大怪我でもなさったら……」
「ふふ、ご心配くださりありがとうございます。ですが、実技は魔法のみですし、あくまでも魔法の優劣を披露するだけですから。それに……実際に試合したとしても、ギル以外に負けるつもりはありません」
そう言って、ニコリ、と微笑むシア。
だけどシア、一つだけ間違っていますよ。
もし僕とシアが対戦することになったら、僕は真っ先に負けを認めますから。
だって。
「あはは。シア、僕の戦闘技術は、全てはあなたを守るためにあるんです。なので、あなたを傷つけるような行為を、たとえ試合であったとしてもこの僕がするはずがありません」
「あう……で、ですが、それは私も同じです……
頬を染めながら上目遣いでそう告げるシアに、僕は嬉しくて胸が高鳴る。
もちろんシアが僕と同じ想いだなんてことは分かり切っているけど、それでもこうやって言葉にしてくれると、それだけで天にも昇る心地だ……。
「ウフフ……本当に、小公爵様とフェリシア様は仲睦まじいですわね」
「もちろんです」
「ふふ……だって、ギルですから……」
クスクスと笑うクラリス王女に僕とシアは恥ずかしげもなくそう言うと、僕達は互いに見つめ合い、そして微笑みあった。
「分かりました! では私は、お二人を精一杯応援いたしますわ!」
「「はい、ありがとうございます」」
そうして、僕達三人は今度こそ訓練場へと向かった。
◇
「では、まずは剣術の実技から行います。実技に参加する生徒は、二列に並んでください」
剣術の実技担当の教師の指示に従い、僕達は二列に並ぶ。
なお、シアは当然ながら魔法の実技のみの参加なので、クラリス王女と共に僕を見守ってくれている。
すると。
「何だ? 貴様が俺の隣なのか?」
「パスカル殿下……」
僕の隣に、パスカル皇子が並んだ。
だけど、二列で並ばせた意図は、隣同士で対戦するということだろうから、僕の相手はパスカル皇子、ということか……。
「フン、昨日は不意を突かれて
パスカル皇子が口の端を持ち上げ、鼻を鳴らす。
「まあ、貴様のような
「…………………………」
この男は先程から好き放題言っているが、僕は全て無視をする。こんな奴、いちいち相手にしていられない。
それに、試合になれば実力の差を思い知ることになるだろうし。
「では、それぞれ隣の生徒と試合をすることになりますので、各自準備をしておいてください」
先頭から数え、どうやら僕とパスカル皇子は八試合目のようだ。
さて、僕はどの木剣を使うかな……って。
「ん? これは……」
見ると、一般的な木剣ばかりで僕に釣り合ったものがない。
確かに体格的にはちょうどいいかもしれないけど……さて、困ったぞ。
僕は木剣を一つ一つ物色しながら、その中でも
木剣のうち、最も大きいものを選ぶと、僕は二、三度素振りをしてみた。
軽すぎて不安で仕方ないけど、とりあえず我慢しよう。
そして。
「次の生徒、前へ」
「はい」
「おう!」
対面に立つ僕とパスカル皇子が、中央へと向かう。
「ん? オイオイ貴様、まさかその木剣で戦うつもりじゃないだろうな?」
僕の身体に不釣り合いな大きさの木剣を見て、パスカル顔をしかめる。
常識的に考えれば、そう思うのも仕方ない、か。
「そのとおりだ。パスカル殿下は気にせず掛かってくればいい」
「フハ! 本当かよ! この国の小公爵って奴は、ここまで剣術の素人で馬鹿なんだな!」
僕を指差しながら、パスカル皇子はせせら笑った。
すると。
「パスカル殿下! 頑張ってくださいね!」
観客席にいるソフィアが声援を送り、パスカル皇子が嬉しそうに木剣を突き上げた。
ああ、なるほど……コイツ、一晩のうちに、あのエセ聖女に陥落させられたか。
結局のところ、本来はシアの仲間となる三人の王子は、全員ソフィアに簡単に骨抜きにされたことになるな。
これじゃ、ざまぁ対象であるギルバートと三人の王子、完全に立場が逆転しているじゃないか。
まあいいや、別に三人の王子がどうなろうと、知ったことじゃないし。
そんなことよりも。
「ギル! 頑張ってください!」
「はい! 見ていてください!」
声援を送ってくれたシアに、僕も木剣を掲げて笑顔で返事をした。
うん……シアにカッコイイところを見せないと。
「試合については三本勝負、先に二勝したほうが勝ちです。なお、あくまでも皆さんの実力を見るための試合ですので、怪我をしないよう無用な攻撃などはしないようにしてください」
「はい」
「それは相手次第だな。といっても、このチビじゃ手加減しても手加減にならないかもしれないけどな」
ヘラヘラと笑うパスカル皇子を尻目に、僕は所定の位置につく。
パスカル皇子も、木剣を肩に担ぎながら同じく位置についた。
「では、一本目……はじめ!」
「行くぞ……っ!?」
開始の合図と共に、僕は木剣の切っ先を向けて突撃する。
パスカル皇子も独特の構えで迎え撃とうとしていたが、一気に僕とパスカル皇子との距離を詰めたため、完全に面食らっていた。
本当なら、このままパスカル皇子のみぞおちに木剣の切っ先を打ち込むんだが、そんなことをしたら、それこそ大怪我どころの話じゃ済まない。
なので僕は、その手前で急停止し、寸止めした。
「…………………………」
パスカル皇子は、僕の突撃に慄き、声を失っている。
まあこれで、身の程というものが分かっただろう。
そう思って木剣を引き、
――バキイッッッ!
僕は頭に、強烈な一撃を受けた。
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