仕えし主君
「シア、学科はいかがでしたか?」
まず、最初学科における能力判定の試験が終わり、僕は早速シアに声をかけた。
もちろんシアはとても優秀だから、こんな学科程度、簡単に解いてしまうだろうけど。
「ふふ、もちろん全問解けました。思ったよりも出題内容が難しくなかったので、よかったです」
「あはは、さすがは
「ギルはいかがでしたか?」
「もちろん! 僕も全問解けました!」
僕はそう言って胸を張る。
まあ、所詮は前世の頃の中学一年生程度の内容以下だったからね、大学院生だった僕からすれば、解けないはずがない。
「ふふ! やはり
「あ、ありがとうございます!」
シアに褒められ、僕は嬉しくて顔を綻ばせる。
うんうん、シアに認めてもらうことが、僕にとって何よりの褒美だ。
「ウフフ、フェリシア様も小公爵様も、さすがですわね」
「「クラリス殿下」」
クスクスと笑いながら、クラリス王女は僕達に話しかけてきた。
その表情や余裕の態度を見る限り、学科試験は上手くいったようだ。
「それで、次は実技ですが……クラリス殿下はどうなさるんですか?」
「私は不参加ですわ。魔法が得意というわけではありませんし、剣なんて触れたこともございませんから……」
そう言うと、クラリス王女が少し寂しげに苦笑した。
まあ、王の資質としてあっても困らないけど、別に王個人の戦闘能力は国の統治にそこまで必要ないからね。
それよりも、大切なのは臣下を巧みに使い、国民を安寧へと導く指導力や判断力こそが求められるんだから。
なのに。
「へえ、クラリスは実技に参加しないんだ」
「ショーンお兄様……」
口の端を持ち上げながら、勝ち誇ったようにそんなことを告げる第二王子が僕達の会話に割り込んできた。
そんなことくらいで、クラリス王女に勝ったとでも思っているのだろうか。
「フフ、もし他国と戦になった場合、王は先頭に立って挑まなければいけないんだ。それじゃ、将兵達が付き従ってくれないよ」
「…………………………」
第二王子の心無い言葉に、クラリス王女は唇を噛み、シアが眉根を寄せる。
ハア……仕方ない、この馬鹿な王子に分からせてやろう。
「何を馬鹿なことを言っているんだ? この王国が戦乱に巻き込まれているような状態ならともかく、ありがたいことに現在は周辺国とは友好関係を結んでいる。そのような有事が起こらないようにすることこそが、王国として取るべき道だろう」
勝ち誇った顔を浮かべていた第二王子に、僕はそう言い放つ。
なお、シアに対して無礼を働いた狩猟大会以降、僕は二人の王子に対して敬語を使うことも、臣下の礼を取ることもやめている。
「だ、だけど! そうは言っても有事が起こったらどうするんだ! その時に『王が戦えません』だなんて、無能の証だろう!」
「無能の証? それはそのような状態を招いてしまった時点で決まっているだろう。それに」
反論する第二王子に射殺すような視線を向けた僕は、一拍置いてシアとクラリス王女を見やる。
そして。
「いざそのような時になった場合は、臣下である僕達が前に出ればいいこと。王は、ただ告げればいいんだ。『王国の平和のために戦え』と。そして王は、僕達に報いてくれればいい」
「っ!?」
僕の言葉に、第二王子は息を飲んだ。
一方、クラリス王女は目を見開き、僕を見ている。
……まあ、元々クラリス王女はシアの大切な友達でもあるし、王国の未来を考えるなら彼女を立てるべきだからね。
何より、こんなことはクラリス王女に王位継承権を与えるよう進言した時点で、僕の中では既に決まっていたし。
「しょ、小公爵様……」
「はい、そう受け取っていただいて構いません。我がブルックスバンク家は、クラリス殿下に忠誠を誓います」
そう言うと、僕はクラリス王女の前でかしずいた。
もちろん、僕の婚約者であるシアも。
「あ、ありがとうございます……ありがとうございます……っ!」
「クラリス殿下。感謝の言葉は、あなたが王となられたあかつきに……」
「はい……はい……っ」
クラリス王女が、王族の証である黄金の瞳から大粒の涙を
そんな彼女を見て、僕とシアはニコリ、と微笑みあった……って。
「あれ? そういえばショーン王子は?」
「グス……ウフフ、ショーンお兄様は、気まずそうにしながらどこかに行ってしまわれましたわ」
「あはは! なるほど!」
「ふふ! 確かにこの場には、居づらいですね!」
僕とシア、そしてクラリス殿下は、教室の中で大声で笑った。
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