自己紹介
「今日からあなた達の担任を務めることになりました、“リンジー=マリガン”です。どうぞよろしくお願いします」
教室の教壇に立って自己紹介をする、眼鏡をかけた深緑の髪と
い、いや、だって、どうしてシアの魔法の家庭教師であるマリガン卿が、僕達の担任をしているんだ!?
「シ、シア……このこと、ご存知だったりしますか……?」
「い、いえ……先生からは、このようなことは一言も……」
すると、マリガン卿は僕達の姿を見つけるなり、クスリ、と微笑んだ。
あ……どうやら、彼女が独断で学院の教師になったのか……。
まあ、これから始まる敵との戦いなどを考えれば、こうやって身近にいてくれるのは非常にありがたいけど……いずれにせよ、今後のことについて後で確認だな。
「では、皆さんのことをよく知りたいですので、窓側の列の先頭から順番に自己紹介をしてください」
マリガン卿の言葉を受け、生徒達は順番に自己紹介をしていく。
「皆も知っているとおり、僕はこの国の第二王子である“ショーン=オブ=マージアングル”だ。学院内では身分に関係なく、等しく過ごしていくことが理念となっている。だから、僕のことも遠慮せずに接してほしい」
第二王子の自己紹介に、同じ派閥の子息令嬢達が盛大に拍手を送る。
一方で、クラリス王女側の子息令嬢達は、興味がなさそうにしている……というより、あえて無視を決め込んでいると言ったほうが正しいか。
「うふふ……プレイステッド侯爵家の次女、ソフィアです。どうぞよろしくお願いしますね」
その醜い本性を隠したソフィアが微笑むと、第二王子派、第三王女派に関係なく、男連中は惚けた表情を見せた。
シアのほうが圧倒的に綺麗なのに、そんな女に見惚れるなんて趣味が悪い……って。
「…………………………」
……まさか、パスカル皇子もあのエセ聖女に見惚れるとは思わなかった。
ハア……これは、さらにややこしい展開になりそうな予感がするぞ……。
「マージアングル王国の第三王女、クラリスですわ。皆さん、どうぞよろしくお願いしますね。それと……皆さんが等しく過ごすのは結構ですが、
にこやかな表情を浮かべながら、第二王子の自己紹介にキッチリと皮肉を返すクラリス王女。
礼儀知らずの第二王子とパスカル皇子は、特に肝に銘じておいてほしい。
第二皇子派の子息令嬢……中でも宰相の次男である“クリフ=スペンサー”と騎士団長の長男の“ダグラス=モーガン”は臣下の身分にありながら、クラリス王女に対し射殺すような視線を向けていた。
上が無礼だと、下も無礼になるものなのだろうか。
まあ、クラリス王女はそんな視線に気づきつつも、澄ました表情で全く意に介していないが。
彼女は僕達よりも一つ年下なのに、十五歳の成人を迎えたオマエ達がそれでどうするんだよ。
その後も自己紹介は続き、次はパスカル皇子の番となった。
だが。
「フン、俺はベネルクス皇国の皇子だぞ? なんで将来係わることのない連中に、この俺がわざわざ名乗ってやる必要がある」
背もたれに身体を預けながら、パスカル皇子は吐き捨てるようにそう言った。
実はこの男、これまで育ってきた環境や生来の気質もあり、
なので、小説本編当初でも、そのことに
とはいえ、さすがにアレは目に余るよなあ……。
実際のところ、第二王子はおろか、一年後に王立学院に入学して懸想する予定のクラリス王女まで、蔑むような視線を送っているし。
まあこれで、クラリス王女とパスカル皇子が結ばれるというシナリオはなくなったな。
ただ、シアに絆されるというイベント自体があり得ないので、ずっと
そして、いよいよシアが自己紹介する番。
婚約者である僕の他にも、クラリス王女とソフィアが見守っている。
といっても、好意的な眼差しのクラリス王女に対し、エセ聖女は実の姉に向けるとは思えないような、侮蔑の視線を送っているが。
「プレイステッド侯爵家の長女で、隣にいらっしゃいますギルバート小公爵様の
そう告げて、ニコリ、と女神のような微笑みを見せるシア。
だけど、婚約者である僕には分かる。
あえて僕の婚約者であることを強調すると共に、注目している令嬢方に向かって、その表情とは正反対の、凍えそうな視線を送っていた。
まるで、『
そんなシアの言葉や態度に、僕は嬉しさで胸が震える。
僕は……愛する
で、次は僕の番。
もちろん、シアの自己紹介に負けないものを、僕も示さないとね。
僕はシアに微笑みかけた後、立ち上がって子息令嬢全員を見回す。
もちろん王子や王女、それにエセ聖女に対しても。
「ブルックスバンク公爵家当主、ギルバートーオブ=ブルックスバンクです。この自己紹介の場をお借りして、一言だけ。僕は、僕の世界一大切な婚約者、フェリシア=プレイステッドに危害を加える者、侮辱する者、その全てを決して許さない」
「「「「「っ!?」」」」」
殺気を込めて放った言葉に、子息令嬢達は一斉に戦慄した。
「そのこと、ゆめゆめ忘れぬよう」
僕はにこやかな笑顔を見せ、お辞儀をした。
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