入学式
「……諸君らがこの王立学園で更なる研鑽を積み、次代の王国を担う礎となってくれることを切に願う」
入学式が始まり、国王陛下の新入生である僕達に向けてのお言葉をいただいた。
ただ、言葉の端々に釘を刺すような言葉が含まれていて、新入生……というよりも、特定の者に向けているようにも聞こえた。
まあ、この国の行く末を考えるなら、たとえ王になれなかったとしても貴族となるか他国へ婿入りするなど、引き続き国政に関わることになるのだから、国王陛下がそう言いたくなるのも仕方ないか。
その後も、在校生を代表して王立学院の生徒会長を務める第一王子の祝辞と、新入生を代表して第二王子による答辞が行われる。
これも、最も身分が高い王族が行うのは当然だ。
ただ、第二王子の答辞を、クラリス王女がどこか澄ました様子……いや、ほんの少し薄ら笑いを浮かべているところが、少し気になった。
普通なら、次期国王を狙う立場として、新入生答辞は王女自身がしたかっただろうに、この余裕は何だろう……?
などと思考を巡らせていると。
「……以上で、入学式を終わります。新入生、退場」
いつの間にか入学式のプログラムを全て終えていて、僕達は講堂を出る。
今日はこの後、教室で簡単な自己紹介と学院生活についての注意事項を受けて、終わりとなっている。
「ふふ……いよいよギルと私の学院生活が始まりますね」
「ええ。ただ、学院で学ぶようなことは既に身に着けておりますし、シアに至っては
「そんなことはありませんよ? だって、私はあなたと過ごす学院生活は
そう言って、手を合わせながら嬉しそうにはにかむシア。
ああもう、どうして僕の婚約者はこんなにも可愛らしく、愛おしいのだろうか。
「はい、それに関しては間違いありません。僕もシアとの学園生活、すごく楽しみです」
「ふふ、ギルも私と同じでよかったです」
そんな会話をしながら、教室にやって来た僕達は各々の席に着く。
といっても座る場所は自由なので、当然ながら僕とシアは一番後ろの席で隣同士だ。
そして、第二王子が中央の左側、クラリス王女が中央の右側へと座る。
それに合わせ、それぞれを支援する子息令嬢もその周囲に陣取った。
なお、シアの妹であるソフィアは第二王子の席の隣だ。
王立学院に入学するまでの間で、第二王妃は目論見どおり聖女の後ろに控える女神教会の支援を取りつけることに成功した。
それによって、第一王妃側の貴族の一部も第二王子側へと流出し、加えて
特に、宰相であるスペンサー侯爵と、警護として常に国王陛下の
今では、王位継承争いの力関係でいえば第二王子が二人を引き離し、最も有利な状況だ。
……まあ、そんなものは僕の身の振り方一つで一気に変わるけどね。
そんなことよりも、気になるのは三人目のヒーローであるパスカル皇子だ。
あの男、どういうつもりか知らないが、クラリス王女のすぐ近くの席を選んだ。
小説の中では、クラリス王女はパスカル皇子に懸想することになっているが、王位継承争い真っ只中の彼女にとっては、そんな色恋沙汰を考えている余裕はない。
だから、同じ展開にはならない、とは思っているが……。
すると。
「ギル……そのように難しい顔をして、どうなさいました?」
気づけば、シアが心配そうな表情で僕の顔を
「ああ……実は、クラリス殿下の
僕はシアに対し、考えていることを包み隠さず話した。
これも、シアと出逢ってからの二年間の間で学んだことだ。
最初の頃の僕は、シアを心配させまいと、つらい思いをさせないようにと、余計なことは言わないようにしていた。
でも、それは間違いで、シアからすれば婚約者に秘密にされることが……悩みを共有できないことのほうが、余程つらいことなのだと僕は気づいた。
だから、今は僕とシアは全てを共有することにしている。
とっても、さすがに前世のことについては言えるはずもないので、隠してはいるけど。
「……実は、私の
「そうなんですか……」
シアの説明に、僕は頷く。
もちろん原作者である僕はその事実を知っているけど、それでも、あくまでも設定上でしかないので、シアのより詳細な説明はありがたい。
あの二人の王子の残念な性格など、予想外なことも多々あるからね……。
「ですが、ギルが心配されるのも分かります。今、クラリス殿下は王位継承をめぐって大変な時期に、あのような無礼な男が殿下の邪魔をすることになってはいけませんから」
シアは、眉根を寄せながらそう告げた。
「あはは、本当にシアは、クラリス殿下と仲良しですね」
「あ……ふふ、そうですね。
「そうですか……」
柔らかい笑みを浮かべながら、シアはクラリス王女を眺める。
「あ……ですが、これはあくまでも私個人の思いですので、王位継承に関してギルご自身が最も良いと思える選択をなさってくださいね?」
「はい、もちろんです。でも、僕のことを一番理解してくれるシアの言葉は、大いに参考にさせていただきますが」
「あう……もう」
僕がそう告げると、シアは苦笑した。
まあ、元々そのつもりではあったんだけどね。
だって、シアの
そんなことを考え、僕はクスリ、と笑った。
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