受け入れてくれた、包み込んでくれた ※フェリシア視点

■フェリシア=プレイステッド視点


「ア、アン、これで大丈夫かしら……」


 今日はフレデリカ妃殿下が主催するお茶会の日。

 私はお茶会のための服装に着替え、侍女のアンにおずおずと尋ねる。


 なにせ、私がお茶会にご招待いただくなんて……いえ、そもそもお茶会に参加すること自体が初めてのこと。

 家庭教師の先生にお茶会のマナーなどもお教えいただいておりますが、粗相のないように振る舞えるでしょうか……。


「はい! フェリシア様はどんなご令嬢方とお比べしても、間違いなく一番輝いておられます!」


 アンが満面の笑みを浮かべ、親指を突き立てて答えてくれた。

 ふふ……このブルックスバンク公爵家にやって来てから、アンはこんな私にいつもよく尽くしてくれます。

 侍女として仕事を完璧にこなし、持ち前の明るさで右も左も分からない私をいつも助けてくれる。


 それに、普段のやり取りなどからも分かるとおり、ギルやモーリス様達とも素晴らしい信頼関係を築いています。

 ふふ……今なら、ギルが私のことを気遣って、アンを私の侍女にしてくださったことがはっきりと分かります。


「さあ、フェリシア様! 早速坊ちゃまにそのお姿をお見せしに行きましょう!」

「ふあ!? そ、そうですね……」


 アンに促され、私は席を立ちますが……うう、少し緊張します……。

 もちろんギルは、私のこの姿を見て手放しで褒めてくださることは分かっています。

 ですが、それでも世界一大好きな彼に、私を気に入ってほしい。


 だって……私は、いつまでもギルの一番・・であり続けたいから……。


 私はアンを連れ、ギルの執務室の扉の前で深呼吸をすると、意を決してアンに合図し、扉をノックしてもらった。


「どうぞ」


 扉の向こうからギルの柔らかく透き通るような声を聞き、私は胸を高鳴らせる。

 ああ……ギルの声を聞くだけで、蕩けてしまいそうになる私がいます……。


「失礼します」


 でも、すぐに表情と姿勢を正し、私は執務室へと入ると……ふああああ……! やはり、真剣な表情で仕事をしているギルは素敵です! カッコイイです!


「! シア!」


 それに、私だと分かった瞬間、ギルがパアア、と輝くような笑顔を浮かべてくださるのが、嬉しくて……幸せでたまりません……!


「あ、あの……これからフレデリカ妃殿下のお茶会に参加しに行くのですが、その前に、その……」


 私はギルの顔を上目遣いでのぞき込みながら、消え入るような声で話しかける……って。


「ギ、ギル……?」

「……え!? あ、ああ、すいません……シアがあまりにも素敵なものですから、その……思わず心を奪われてしまいました」

「ふああああ!?」


 手で口元を押さえ、頬を赤らめるギル。

 それと共に彼の口から紡がれる賞賛の言葉で、私は顔が熱くなり、思わず変な声を漏らしてしまいました……。


 ほ、本当にギルは、その……あうう、ギルが好きすぎて、胸が苦しいです……。

 しかも、彼の優しく輝く灰色の瞳は、声は、その笑顔は……全ては私のためだけに向けられるなんて……本当に、何て私は幸せなのでしょうか……。


「……モーリス、今日はこんなに頑張ったんだし、仕事は明日に回しても……「坊ちゃま、いけません」……チクショウ!」


 ギルが仕事を切り上げたいと懇願するも、モーリス様は一蹴されました。

 ふふ……このお二人の掛け合いを見るのも、私は楽しくて仕方ありません。


「ギル……お茶会が終わりましたら、すぐに戻ってまいります。ですので、それまでお待ちいただけますでしょうか?」

「うぐう……し、仕方ありませんね……でしたら、お帰りになられたら、今度は僕と一緒にお茶をいかがですか?」

「はい! 是非お願いします!」


 ふふ……私がお答えしたら、ギルがまた蕩けるような笑顔を見せてくださいました。

 これが私だけのもの・・・・・・なのですから、なんて贅沢なのでしょうか……。


「ふふ、では行ってまいります」

「あ……せ、せめて玄関まで送らせてください」


 そう言うと、ギルは私の前で跪き、右手を差し出した。

 私は、いつものようにその手に自分の手を添える。


 ああ……絶望と憎悪に彩られた一度目・・・の人生を経て、私の中で焦がし続けていた復讐の炎が霞んでしまうほど……もはやどうでもよいと思えてしまうほど、あなたは至上の幸福を与えてくださいました……。


 ギル。


 二度目・・・の人生で私を受け入れてくれて……包み込んでくれて、ありがとう。

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