二人でダンスを
「では、フェリシアさんには改めて招待状をお送りするわね」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
第一王妃は、そのまま別の場所へと移動し、シアはその背中へ向けて頭を下げ続けている。
「シア、もう大丈夫ですよ」
「あ……ふふ、ありがとうございます」
僕は声をかけると、シアは顔を上げてニコリ、と微笑んだ。
それにしても……第一王妃のあの口振りだと、王位継承争いとは関係なくシアを支援してくれるみたいだな。
もちろん、僕としてはシアの味方は多ければ多いほうがいいので、歓迎すべきところではあるんだけど……あはは、小説ではシアと第一王子の関係を猛烈に反対して険悪な仲になる二人がこんな関係になるなんて、面白いなあ……。
「ギル、この私がお茶会にお誘いいただけました」
「ええ、そうですね」
どうやらシアは、第一王妃の思惑や配慮、そういったものとは一切関係なく、ただ純粋にお茶会に誘われたことを喜んでいるようだ。
そういえば、小説の中でもシアは学院に入学して初めてできた友達のお茶会で、嬉しくて涙を
「……まさかこの私が、他の貴族令嬢のようにお茶会に参加できる日が来るなんて……っ」
そう呟いたシアの瞳から、涙が
うん……他の令嬢であれば当たり前のようなことでも、シアにとってはその全てが初めての体験なんだ。
逆を言えば、シアはプレイステッド家において、そんな当たり前のことすら認められていなかったということ。
それを考えるだけで、あの侯爵を捻り潰してやりたい。
「シア、知っていますか? お茶会は、招かれるだけではないんです。参加された方々を、自分で招いたりもするんですよ?」
「グス……あ、ふふ……そうでしたね……」
「なのでシア、フレデリカ妃殿下のお茶会に参加したら、たくさんお友達を作ってきてください。そして、うちの屋敷にお招きして、お茶会を盛大に行いましょう」
「はい……はい……っ!」
シアはサファイアの瞳を潤ませながら、咲き誇るような笑顔で何度も頷いた。
◇
「シア……今日は満月ですよ。ほら」
「綺麗……」
晩餐会の喧騒から離れ、僕とシアは王宮のベランダに出ていた。
とりあえずは、シアが料理を美味しそうに食べる姿も堪能できたし、あの中で不快な連中の姿が視界に入るのも嫌だしね。
それに他の有力貴族達が、僕がどの王子・王女を支持するのかと動向を
これなら、僕とシア二人だけでいるほうがいいよね。
何より。
「うん……やはりシアには、誰よりも月がよく似合います」
「ふふ、何ですかそれは」
「だって、女神ディアナは月の化身ですからね。なら、女神に祝福されているシアは、必然的にディアナと同義です」
「ふあ……も、もう……」
僕の言葉に、シアは頬を赤らめる。
あはは、毎日たくさん褒めているのに、シアは今もそれに慣れずにこうやって恥ずかしそうにしている。
そんなところも、シアの魅力の一つだよね……。
そんな彼女の横顔を眺めながら頬を緩めていると。
「あ……ホールから音楽が聞こえてきましたね」
「そうですね」
ホールにいる楽団が、音楽を奏でる。
どうやらダンスタイムが始まったようだ……って。
「あれは……」
窓越しに見えるホールの中央に、第二王子がソフィアをエスコートしながら向かっている。
どうやらファーストダンスは、あの二人が務めるようだ。
だけど、そうか。
第二王子……いや、第二王妃は、ソフィアのバックにいる女神教会の支援を取りつけるつもりなんだな。
まあ、あれだけやらかした後で、王国最大の貴族であるブルックスバンク公爵家の支援は一切期待できない上に、第一王妃のほうはクラリス王女がいる。
なら、少しでも王位継承争いを優位にするためには、女神教会の後ろ盾をつけるしかないからね。
そして……シアの実家であるプレイステッド侯爵家は、第二王子につくことを決めたか。
はは、それは好都合。
これで第二王子や女神教会を含め、まとめて叩き潰せるというものだ。
とはいえ、実際に連中を潰すのは
それまでは、精々夢を見ているがいい。
さて……。
「シア……よろしければ、この僕と一曲踊ってくださいませんか?」
僕は彼女の前で
「ふふ……もちろん、お受けいたします。では、中へ……」
そう言って僕の手を取ったシアは、微笑みながらホールへと向かおうとするけど。
「いいえ、今宵は満月。この二人だけの舞台で、女神ディアナに僕達のダンスを披露いたしましょう」
「ふふ! それは素敵ですね!」
ということで、僕はシアと共に、ホールから漏れ聞こえる音楽を頼りにベランダでダンスを踊る。
あの歓迎会の時とは違い、シアはダンスが本当に上手になった。もちろん、練習の時もパートナーは僕だ。
「ふふ! ギル! ギル!」
「あはは! シア! シア!」
僕とシアは、互いの名前を何度も呼び合いながら、音楽に合わせて軽快にステップを踏む。
そして。
「シア……愛しています……」
「ギル……私も、あなたを誰よりも愛しています……」
曲とダンスの終わりと共に、僕達は愛をささやき合った。
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