第一王妃からの、お茶会の誘い
「シア……よく、頑張りましたね……」
あのソフィアとのやり取りの後、僕はシアにそっと声をかける。
気丈に振る舞ってはいるけど、シアの手は震えていた。
でも……それでもシアは、今まで苦しめてきたソフィアに対し、初めて反撃をしたんだ。
もちろん小説の本編が本格的に始まって王立学院に通うことになれば、シアはギルバート共々、盛大にざまぁをすることになっている。
だけど……シアはそれより二年も早く、一歩前に踏み出したんだ……。
「ギル……私、ソフィアに言ってやりました。私はもう、
「ええ……ええ……! あなたは、本当に頑張りました! 本当に、あなたはすごい人です……!」
サファイアの瞳から涙を
そんな彼女を、僕は強く抱きしめた。
シアがあの女に言ったことは、大したことではないのかもしれない。
もし小説の読者ならば、『なんだ、この程度か』と、批判を受けるかもしれない。
でも……シアは、勇気を振り絞ったんだ。
本当は、ソフィアが怖いはずなのに。
本当は、ソフィアがトラウマになっているはずなのに。
そんな彼女の勇気を、僕だけが褒め称えたい……いや、僕だけが褒め称えることができるんだ……。
「グス……ふふ、私がこんなことができるようになったのも、全部ギルのおかげなんですよ? あなたがこんな私を、全て受け入れて、認めてくださって、支えてくださるから……」
「もちろん、僕はシアの全てを受け入れていますし、支えてもいるでしょう。ですが、今日の一歩を踏み出したのは、紛れもなくシアの心の強さです」
「あ……」
「僕は、そんな
「ああ……ギル……ギル……ッ!」
「シア……」
僕とシアは、多くの貴族達の前であるのも
なのに。
「小公爵殿、それにフェリシア。これは一体、どうしたというのですかな?」
そんな二人だけの空気を思いきり邪魔してきたのは、シアの父親だった男、プレイステッド侯爵だった。
「……何でもありません。行きましょう、シア」
「はい……」
ソフィアとのこともあったから、これ以上シアの心に負担をかけるわけにはいかない。
僕は軽く目配せだけして、彼女の肩を抱えてその場を足早に立ち去る。
はは、知りたければ、オマエの
◇
「ふふ……ギル、私はもう大丈夫です」
シアが僕の顔を
プレイステッド侯爵の前から立ち去り、僕達はサロンで果実水を飲みながら休憩していた。
「シア、無理をしてはいけませんよ? あなたはすごく頑張ったんです。自分では気づかないところで、疲れていたりするのですからね?」
「ふふ……本当にギルは過保護ですね。
「当然です。僕のあなたへの想いは、世界中の誰にも負けません」
嬉しそうにしなだれかかるシアを抱き留め、僕は胸を張って答えた。
「でも、本当に問題ありませんので、せっかくの晩餐会をあなたともっと楽しみたいです」
「あはは、分かりました。では、行きましょう」
「はい!」
僕は元気に答えるシアの手を取り、サロンを出てホールへと戻ると……はは、プレイステッド侯爵がソフィアと一緒にシアを睨んでいるよ。
あの女から、何か吹き込まれたかな?
「ウフフ……小公爵殿、フェリシアさん、楽しんでいらっしゃるかしら?」
声をかけられて振り返ると、羽扇で口元を隠しながら微笑む第一王妃だった。
「これはこれは、フレデリカ妃殿下。おかげさまで、シアと楽しく過ごさせていただいております」
「それはよかったわ」
そう言って、第一王妃がニコリ、と微笑んだ。
「それにしても……あらあら、あんなところに聖女がいるわね」
白々しくも、第一王妃はプレイステッド侯爵とソフィアを見やり、そんなことを言った。
一体、どういうつもりなんだろう……。
「それよりも……実は小公爵殿とフェリシアさんにお願いがあるのよ」
「お願い、ですか……?」
第一王妃の言葉に、僕はシアを庇うように立って身構える。
ひょっとして、王位継承争いで便宜を図れってことか……?
だが、聡明な第一王妃のことだ。そんなことをすれば、逆に僕の不興を買うことは理解しているはず。
じゃあ、一体……。
「ウフフ、大したことじゃないの。実は今度、お茶会を開こうと思うのだけど、フェリシアさんにも是非参加してほしいのよ」
「あ……わ、私がでしょうか……?」
驚きのあまり、シアがその美しいサファイアの瞳を見開いた。
「ええ。こんなに素敵な令嬢なんですもの、これからも仲良くしたいじゃない?」
なるほど……僕に直接ではなく、シアを通じて支持を得ようということなのかな?
確かに、僕はシアのお願いならどんなことだって叶えるからね。このやり方は間違いじゃない。
ただし、シアを政争に巻き込むというのなら、話は別だけど。
「ウフフ……小公爵殿が心配しているようなことは、考えておりませんよ?」
そう言って、クスクスと笑う第一王妃。
はは……僕の思考を先回りしてくるし、やりにくいなあ……。
「ただ、このお茶会で他の令嬢方は理解するのではなくて? 第一王妃であるこの私が、
ああ、そういうことか。
第一王妃は、聖女であるソフィアではなく、シアの後ろ盾になってくれるつもりなんだな。
「シア……お茶会へ参加するかどうかは、あなたの判断にお任せします。ですが、このお茶会があなたにとって実りのあるものになることは、この僕が保証します」
僕がシアにそう告げたのを聞き、第一王妃が満足げに頷く。
「ふふ……ありがとうございます。至らぬところもあるかと思いますが、是非とも参加させていただきたく存じます」
「ウフフ、よかったわ」
優雅にカーテシーをするシアを見て、第一王妃はにこやかに微笑んだ。
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