最高のヒロインで、悪役令嬢
「さて……これで、取り急ぎ必要なものは買い揃えることができましたね」
ドレスに『女神の涙』をはじめとした宝石、それに靴や身の回りのもの一式を購入し終え、僕とフェリシアは帰路についている。
「ギルバート様、本当にありがとうございました」
フェリシアが、居住まいを正してぺこり、とお辞儀をした。
そんな姿も、可愛らしくてたまらない。
「あはは、礼には及びませんよ。そもそもあなたは僕の婚約者なのですから、これは当然のことです。それより、明日は何をしましょうか? せっかくですし、ピクニックなども楽しそうです」
「で、ですがその……ギルバート様はお仕事があると……」
「ああー……」
くそう、誰だフェリシアに余計なことを吹き込んだのは。
確かに歓迎会をはじめ、彼女を迎え入れるために普段の仕事を疎かにしたことは否定しないけど、だからといって彼女を最優先にするに決まっているだろうに。
「ギルバート様、私のことよりもご自身のお仕事を優先なさってください」
「はい……」
少し厳しめに言われてしまい、僕は思わず肩を落とした。
「で、ですが、そうするとあなたは何をされるのですか? あ、もちろん自由に過ごしていただいて構いませんが……」
「あの……もしよろしければ、色々と勉強をしてもよろしいでしょうか……?」
「勉強、ですか?」
勉強かー……確かに、二年後には王立学院に通うことになるんだし、その前にある程度学んでおくに越したことはない。
それに、何なら今から魔法を学んで、その才能を開花させるのも悪くないかも。
「はい! その、色々と覚えれば、あなたのお役に立つことができますから……」
「あ……」
ヤバイ。彼女の気遣いが嬉しすぎる。
「あ、ありがとうございます……ですが、僕のことは気になさらなくても大丈夫ですよ?」
「い、いいえ! 私は気にしたいのです! 私は、あなたを支えたいのです!」
身を乗り出し、必死で訴えるフェリシア。
ああ……あなたという
「ギルバート様……?」
「本当に……今日はあなたを喜ばせようと思っていたのに、逆に僕が喜ばされてばかりです」
「あ……ふふ、それは私の
僕とフェリシアは、屋敷に到着するまでの間、互いに手を取り合いながら見つめ合っていた。
◇
「ふう……」
日付が変わる深夜、僕は庭園に一人来ていた。
今日はドレスも宝石も買えたし、僕としては満足のいく一日だった。
何より……今までは僕の書いた物語の展開に悲観して諦めていた彼女への想いを、抗おうと奮起するきっかけになった。
『私は、あなたの婚約者です。あなたの妻になる者です。ですから……私はいつまでもあなたのお
『はい……私はあなたのお
フェリシアの、この言葉で。
「はは……まさか僕が、
そう呟いてから、僕は苦笑する。
ウーン……こういうのって、むしろ可愛い子どもを見守る父親の気分になるものだと思ってたけど、本気で好きになってるんだもんなあ……。
まあ、ここは僕が書いた物語の世界なのかもしれないけど、それでも、ここが今の僕の
だから、フェリシアを好きになったとしても全然おかしくないな。うん。
などと考えていると。
「ギルバート様……?」
「ん? あれ?」
現れたのは、フェリシアだった。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「実はなかなか寝付けなくて、少し夜風に当たろうかと思ったら、ギルバート様のお姿が見えましたので」
「そうでしたか」
僕は隣の席に招くと。
「あ……」
「風邪を引いてはいけませんからね」
そう言って、上着を彼女の肩にかけた。
「ふふ……ありがとうございます」
フェリシアは僕の服で顔をうずめ、口元を緩める。
ああもう、尊いなあ……。
「ギルバート様、少しお話してもいいですか……?」
「ええ、もちろん」
おずおずと尋ねる彼女に、僕はニコリ、と微笑む。
あはは、それにしても彼女からそんなことを言うなんて珍しいな。もちろん、僕としてはすごく嬉しいけど。
それから僕達は、色々なことを話した。
フェリシアのこと……は、悲しい思いをさせてしまうので、僕のことや公爵家のこと、あとはモーリスやゲイブ、アンなど使用人達のこと、他愛のないことまで。
結局、ほぼ僕が一方的に喋ってたな……。
「あ、あははー……こんな話、つまらないですよね……」
「いいえ、そんなことはありません。ギルバート様のことが色々と知れて、すごく楽しくて嬉しいです」
「そ、それならよかった」
笑顔の彼女を見て、僕はホッと胸を撫でおろした。
「でも……」
「で、でも!?」
「ふふ……私も、あなたのように強くなりたいな……」
そう言って、クスリ、と微笑むフェリシア。
あはは……心配しなくても、あなたは誰よりも強いから。
あなたはそんな、最高の主人公でヒロインなんだから。
といっても、
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