第3話 家出をした仔ライオン


 春のポカポカと陽気な陽射しが巣穴に注ぎこむ中で、仔ライオンたちは退屈な時間を過ごしていました。

 何を思ったか突然、次男坊の仔ライオンが立ち上がりました。

「いけない、ぼくたちはこんなことをしていては。今こそ親許を離れて独立するべきときだ」

 他の仔ライオンたちはねぼけ眼で次男坊を見つめています。

「巣穴を出て自分の運を試しに行こう。街に行って出世するんだ」次男坊は家出を宣言しました。

「でも、お母さんが巣から出てはいけないって。外には悪い奴らがうようよいて、僕たちは捕まって売り飛ばされちゃうんだ」末っ子ライオンが抗議すると、他の仔ライオンたちも頷きました。

 次男坊ライオンは鼻でせせら笑いました。

「わかっちゃいないな。そんなの、大人たちの陰謀さ!

 いいや、ぼく一人で、家を出るから。臆病者は巣の中に引っ込んでいて、ぼくが大物になるのをそこで見ているがいいさ」

 そう言い終えるなり、次男坊ライオンは巣穴を飛び出してしまいました。


 次男坊ライオンの名誉のために、これだけは言っておきましょう。少なくとも彼は全力で抵抗したと。


 巣穴を出て十二秒後には、次男坊ライオンは悪い奴に捕まって、サーカスに売り飛ばされていました。

「さあ、これからお前の特訓だ」立派な髭をはやしたサーカス団の団長は宣言しました。

「ライオンの火の輪くぐりが、今週の出し物の目玉だからな」

 ぴしっ! 団長が手にした鞭が楽しそうに鳴りました。


 一時間と八分そして四十五秒後に、汗まみれの団長は宣言しました。

「お前のような出来の悪いライオンはこれまでに見たことがない。駄目だ。無駄だ。見捨ててやる。さあ、二つのうち一つを選ぶが良い。煮えたぎる鍋の中か、それとも動物園に売り飛ばされる方が良いか?」

 次男坊ライオンには選択の余地はありませんでした。


 巣穴を出て二時間と三十五分後、次男坊ライオンは動物園のオリの中にいました。

 さあ、これから気楽なボンボンのらりの生活が始まるのです。毎日決まった時間にご飯、決まった時間にお休み。何もしないで良い無為徒食の生活です。これでネット環境に繋がったパソコンと無料のゲームがあれば言うこと無しです。


 でも運命はそれを赦しませんでした。


 たまたま動物園に来ていた王様の料理人が、仔ライオンを指さしてこう叫んだのです。

「あいつだ。あいつがいい。探し求めていた食材がついに見つかったぞ!」

 今度も次男坊ライオンには選択の余地はありませんでした。


 巣穴を出て三時間十八分後、次男坊ライオンは王様の下へと運ばれる食材の行列の中に、箱の中に押し込められて運ばれていました。

 真っ暗な箱の中で次男坊ライオンは泣きました。

 神様ご免なさい、ぼくが悪うございました。助けてくれたら、もう金輪際、家出なんかしません。

 そのときでした。どすんばりばりと音がして箱が壊れ、お母さんライオンの顔が覗いたのは。

 これには仔ライオンも驚きましたが、お母さんライオンも驚きました。日課である人間部族への襲撃をしたら、自分の子供がその荷物の中から出てきたのですから。


 こうして、仔ライオンは無事巣穴へと戻ることができたのです。

 最後にこれも次男坊ライオンの名誉のために付け加えておきますが、彼はいまでも家出を繰り返していて、最近では何とか三分間は売り飛ばされずにすむようになっているそうです。


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