第4話 王様になった仔ライオン


 仔ライオンたちはまたもや退屈な日々を過ごしていました。

 そんな状況を打破するのはいつもの通り、次男坊の仔ライオンです。

 すでに皆さんもお気づきの通り彼はトラブルメーカーだったのです。

 人間たちからの分捕り品である本を読んでいた彼は、その文字の羅列の中から素晴らしい事実を見つけだしたのです。


 すなわち、この世に王様ほど素敵な職業はない、ということです。


 さっそく、次男坊の仔ライオンは王様になることにしました。他の仔ライオンたちを説得にかかり、ついに王様を選ぶ選挙を行うことにしてしまったのです。

 次男坊仔ライオンは自分で思うほどにはドタマが良くなかったので、王様というものは選挙で選ばれるものではないことを知らなかったのです。

 もちろん、仔ライオンたちはみんな、王様になるべきライオンは自分だと考えていたので、それぞれが自分の名前を投票用紙に書きました。

 でも、次男坊仔ライオンには強い味方があったのです。その味方の名前とは、そう、そう、その通り。あなたのご想像通り。つまりはインチキという味方です。

「ほら、ここに選挙の結果がある」次男坊の仔ライオンは宣言しました。

「ぼくの名前が4に、その他の名前が1だ! これで王様はぼくに決まり」

 選挙結果を満場一致と発表しなかったのは、仔ライオンなりの狡猾な知恵でした。

 こうして次男坊は見事に王様仔ライオンになることに成功しました。銀紙と金紙で作った王冠を頭に載せ、尊大な態度で巣穴の中を見渡します。

 せっかく王様になったのだから、その権威というものを示さねばなりません。こうして改めて見てみると、巣穴は大層汚れています。もちろんその責任の半分は他ならぬ次男坊仔ライオンにあったのですが、それはまた別のお話。

「がおう。ぼくは王様だぞ。さっそく下々のものに申しつける」

 王様仔ライオンは宣言しました。

「みんなで巣穴を掃除せよ!」

 一斉に、他の仔ライオンたちが、不満の声を上げました。

「やだい。やだい。どうしてぼくたちが掃除しなくてはならないんだい。

 だいたい王様ってのは親分のことだろ?

 親分ってのは子分の面倒をみるものなんだ」

 これには王様仔ライオンも困りました。確かに、他の仔ライオンたちの言う通りです。親分というものは、子分の面倒を見るものなのです。

 面倒をみる、という言葉の意味がいくつもあることには気づかずに、王様仔ライオンは泣く泣く一人で巣穴を掃除しました。

「よしよし」今や、自分たちが素晴らしい奴隷を手に入れたことに気がついた、その他の仔ライオンたちは満足げに言いました。

「次はお皿洗いだ。それが済んだら、ご飯の支度に、洗濯、それから部屋の模様変えだ」

 さあ大変なことになってしまいました。王様仔ライオンは一生懸命仕事をこなしましたが、皆さんもご存じのとおり、仕事というものは次から次へと無限に湧いてでて来るものです。

 とうとう王様仔ライオンは音を上げてしまいました。

「もう王様なんか辞める!」そう宣言しました。

「却下する」他の仔ライオンたちは言い返しました。

「ならば革命だ。革命を要求する」本から読んだ知識を元に、王様仔ライオンは答えました。

 革命は本来誰が行ってもよいものですが、王様という存在にだけは許されないものなのだということは、この際どこかに仕舞っておきました。

「そうか。革命か。ならば仕方がないな」

 やっぱりドタマの悪い他の仔ライオンたちは納得しました。

「では、もう一度選挙を行おう。王様をこのまま続けさせることに賛成のもの!?」

 もちろん、王様仔ライオンを除くすべての仔ライオンたちは王制の継続に賛成しましたが、王様仔ライオンには「インチキ」という名の強い味方がいたのです。

 こうして王様仔ライオンは次男坊の仔ライオンに戻り、政治は王制から民主主義に移行したのです。次男坊仔ライオン以外の仔ライオンはみんな、何故かこの事実にがっかりしたのですが。


 たった一つだけ、そう、たった一つだけ。次男坊の仔ライオンが気づかなかった事実があります。


 それはこの世で一番素敵な職業は、実は王様ではなく、王子様であるということでした。

 なんと言っても、王子様ならば、お姫様にキスし放題ですからね!


 でもそれに加えて本当の秘密をお教えしましょう。

 長女に当たる仔ライオンは、この事実をとっくの昔に知っていたのです。だけど、そのことは誰にも言わないように黙っていました。


 どうしてかって?


 それはもちろん。彼女はお姫様にはなることができても、王子様にはなることができないことを、よく知っていたからです。

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