第2話 キリンになった仔ライオンたち


 ある日の退屈を持て余した次男坊の仔ライオンの一言がその発端です。

「そうだ、ぼくたちはいつまでもライオンであってはいけないんだ!」

 他の仔ライオンたちはこの発言に耳をそばだてました。

「いまや時代は、地球に優しい菜食主義の時代だ。肉食ばかり続けるライオンなんてきっぱり捨てて、他の動物になろうじゃないか」

 次男坊ライオンは軽率な性格でしたが、他の仔ライオンたちも似たり寄ったりでしたので、この意見につい賛同してしまいました。

 ライオンを辞めよう。そうだ。ライオンなんかまっぴらだ!

 体が大きいから映画館の席に座るのだって遠慮しながらだし、肉食だからいつも口臭に気をつけなきゃいけない。それに暑い夏にはタテガミは邪魔だ。

 仔ライオンたちは結論を出しました。いまこそライオンなんか辞めるとき。


 さあ、それならどんな動物になろう?


 巣穴に静寂が訪れました。誰も何にも考えていなかったせいです。

「わ・・・ワニなんかどうだろう?」長男ライオンが言いました。

「ワニは肉食だよ」次男坊ライオンが指摘しました。

「じゃ、ゾウ」

 ゾウ。ここで意見が別れました。大きくて、強くて、子供たちの人気者。

 だけどちょっぴりと太め過ぎる。あれじゃあ、きっと、メタボで心臓がもたないから寿命は短いだろう。そんな意見に落ち着きました。仔ライオンたちはちょっとだけ、失礼な思想の持主だったのです。


 じゃあ、他にどんな動物がいいだろう?


 サイ。カバ。カモシカ・・色々な動物が飛び出しました。

 ン・バギ、タングタング、クァトウルス・サティアヌウス・・・空想上の動物までずらりと並びました。

 しかしどれも仔ライオンたちの感性にぴたりと来るものではありません。

 最期にキリンの名前が飛び出しました。

 キリン!

 いやああああほおおおおう。仔ライオンたちの口から謎の歓声が湧きおこりました。

 これで決まりです。キリンなら最高。背が高くてお洒落で優雅。おまけに奇麗な模様までついています。


 仔ライオンたちはキリンになることに決めました。


「でも、どうやって?」三男坊の仔ライオンが指摘しました。

 またもや巣穴に静寂が舞い下りました。そのことについては誰も何にも考えていなかったのです。

「簡単さ、絵の具で体にキリンの模様を描けばいいんだ!」次男坊が指摘しました。

 こうして仔ライオンたちは体に茶色と黄色の模様を入れ、キリンへと化けました。

 これで見事に短足のキリンのできあがり。


 短足ですって!?


 これじゃキリンじゃないやい! 他の仔ライオンたちは叫びました。

 キリンはすらりとした細くて長い足を持つものです。仔ライオンたちは嘆きました。足を何とかしなくちゃ。

 今度も答えを見つけたのは次男坊ライオンです。まっすぐですらりとした木の枝を探してきて、竹馬を作って自分たちの足に括りつけたのです。

 これで見事な首の短いキリンの出来上がり。


 首が短い?


 これじゃキリンじゃないやい! 他の仔ライオンたちは叫びました。

 キリンはすらりとした細くて長い首を持つものです。仔ライオンたちは嘆きました。この首を何とかしなくちゃ。

 進化論で有名なダーウィンだけは、この意見に眉をひそめました。彼は首の短いキリンをこよなく愛した人物でしたから。でも幸いに、仔ライオンたちはダーウィンの名前すら知りませんでした。

 やはり最期に答えを出したのは、次男坊ライオンでした。

「よし、こうしよう。ここに枝振りの良い木がある。この枝に縄を結んで、その先に輪を作る。この輪に首を入れてぶら下がったら、きっと首が伸びるに違いない」

 お母さんライオンの前では、ちょっとばかり言葉にし難いことですが、仔ライオンたちは少しだけ、そう、少しだけですが、ドタマが悪かったのです。

 こうしてずらりと並んだロープの輪の中に仔ライオンたちは頭を突っ込み、それから足下の台を、一斉に蹴り飛ばしたのです。


 そのような訳で、お母さんライオンが狩りから戻ったときには、巣穴の前には彼女の度肝を抜くような光景が広がっていたのです。


 幸い、今回の一件で死者こそでなかったものの、仔ライオンたちはお尻が腫れ上がるまで、お母さんライオンにぶたれてしまったのです。

 でも大丈夫、仔ライオンたちはこんなことでへこたれたりはしません。彼らは次はどんな動物になろうかと、みんなで思案中なのです。

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