第5章 少女、霧中を駆ける

プロローグ5

『魔歴1718年6月1日。

 ポップ王国と大魔連邦が正式に戦争を表明するその少し前、事件はすでに起きていた。

 連邦軍特殊行動隊参謀長・ライ=アザリアの急襲により、法皇オルビアが死亡。

 国の要とも言える城内の一角が占拠された。

 普通に考えれば一大事である。

 その勢いのままに、城全体を占拠され、王都を占拠され、そして国を占拠される可能性も十二分にあり得たからだ。


 ただ、運命のいたずらかあるいは罠に嵌められたのか、その場にはオルビアの他にもう一人、王族がいた。

 ポップ王国王女アンジェリーナ=カヤナカその人である。』


 ――――――――――


 第5章の書き出しを見て、ニカははぁーっと息をついた。


「ついに、始まるのかぁ。第二次ポップ大戦!ものすごく有名な戦争なのはもちろんわかってるけど、詳しいことはよく知らないからなぁ――楽しみなような、ちょっぴり怖いような」

「おい」

「うわぁ!びっくりした――セリオか」


 どうして私が読もうとすると毎回、こいつは邪魔してくるんだろう。

 ニカは口を尖がらせ、セリオを睨んだ。

 対するセリオはいつものように突っかかってくるかと思いきや、ただそこでじっと立っているだけで、何も言ってこない。


「何?じぃっと見て、また文句言うつもり?」

「ちょっと本ずらせ」

「え?」


 何を思ったのだろうか。セリオは唐突にそう一言だけ言うと、ニカの隣の椅子を引き、そこに座ってしまった。


「え、え?」

「ほら、俺にも見せろ」

「?」


 困惑するニカをよそに、セリオはふてぶてしく本を二人で見やすい位置にずらした。


 何?一緒に見るつもり?

 なぜ?

 いや、その前に――。


「え、でもセリオ、確かこの前はまだ3章読んでないって」

「だから、あれからネタバレされないように急いで読んだんだろうが!」

「4章まで?」

「そう!」

「で?一緒に見ようって?」

「」



「ほら!早く続き読むぞ!!」

「えぇ!?そんな後から来て身勝手な!」


 ほんとこいつは、自分勝手なくせに、嘘をつくのも苦手って――面倒臭い!


 ニカはじとっとセリオを横目で見つつ、改めて見出しに目を向けた。


「『第5章 少女、霧中を駆ける』」

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