第192話 北へ
カタカタカタと音を立て、馬車が小道を行く。
その中でアンジェリーナはぼーっと窓の外を眺めていた。
「こうして見ると、ギルも様になっているんだけどね」
「――確かに、そうですね」
今回、視察隊にはアンジェリーナやクリスを含めた、複数の要人がいる。
ゆえに、移動中の警備も徹底しているわけで、要人の乗ったキャビンを囲むようにして、兵士が配置されている。
当然、ギルもその一人であり、現に、キャビンの横を馬に乗り並走していた。
ギルが馬に乗っているところなんか初めて見た。
でも、いとも容易く馬を操るその姿は、優雅そのもの。
周りのエリート兵士と比べても、全く見劣りしていない。
「ギルさん、
「ふっ、それを補って余りある、馬鹿さ加減が――」
本人の居ぬ間になんて勝手極まりないと、バレたら怒られるだろうなぁ。
閉塞された空間の中、アンジェリーナははぁとため息をついた。
――とまぁ、いつも通り振舞ってみてはいるけれど、実際はとても落ち着いていられる心理状態ではない。
さっきからずっと心がざわめいている。
果たして、あとどれくらいで着くのだろうか。
アンジェリーナは再びため息をついた。
「緊張していますか?」
「え?」
見ると、クリスはどこか心配そうにこちらの様子を伺っていた。
「――あぁ、まぁ」
「仕方ありませんよ。初めての公務なんですから。それも、行く都市どこもかしこも初めての場所ですし。それに――」
そこで言葉を切り、クリスは窓へ視線を逸らした。
「何せ、次の目的地はあの“ヤルパ”ですからね」
そう。それこそが、アンジェリーナの気を重くさせている、一番の要因。
視察隊の次の目的地は、ヤルパなのだ。
――――――――――
旧ヤルパ王国改め、現ヤルパ領。
長きにわたり少数民族問題でポップ王国と敵対し、そして6年前、
カイオラを爆撃し、宣戦布告。
後にヤルパ戦争と呼ばれる戦争を起こした当事国だ。
カイオラ近くのポップ王国軍を狙った、同時多発ミサイル攻撃では、多数の犠牲者を出し、当時小国として格下呼ばわりされていたはずのヤルパ王国に、ポップ王国は意表を突かれる形となった。
だが、ヤルパの激しい攻勢もそこまでだった。
そこからわずか二週間後、開戦から一か月余り。
ポップ王国の圧倒的な兵力と物量に押され、ヤルパは降参。
ヤルパ戦争はポップ王国の勝利により、あっけなく終戦したのだった。
しかし、そのあっけなさが逆に、疑念を確信に変えた。
結局、ヤルパにポップ王国とやり合えるだけの戦力など、初めから存在していなかったのだ。
つまり、あのミサイルはどこか別の国からの資金援助でもって手に入れた代物。
そして、もう一つ――。
『王国内に、裏切り者がいる』
その言葉が、ジュダの推測が、現実味を帯びてきた。
――――――――――
「アンジェリーナ様」
その声にはっとして、アンジェリーナは顔を上げた。
「見えてきましたよ」
窓の外、クリスが指さす先をアンジェリーナは覗き込んだ。
森の中に突如現れた巨大な壁。
その姿はまさに要塞。
ここは、ヤルパはジュダが死ぬ原因となった大元の場所。
そこに足を運ぶことに、抵抗があるわけではない。
でも、私には、やるべきことがある。
決意新たに、アンジェリーナたちはヤルパへと突入した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます