第4章 少女、深淵に触れる

プロローグ4

「よいしょっと!」


 バンと大きな音を立て、ニカは机の上に本を置いた。


「ふぅ――さぁさぁ、今日から新章開幕だ!」


 ニカは、椅子によじ登ると、にやりと笑みを浮かべてすりすりと手をこすり合わせた。


「えーっと、確か次が第4章で、ついに18歳編かぁ。今までの話も面白かったけど、これからどうなるのかなぁ」


 感傷に浸りながら、ページをぺらぺらとめくる。


「はぁ。前回は、いろいろあったよね。特に――うっ、ジュダのことなんて――う゛っ、思い出しただけで涙が」

「何また一人でブツブツ言っているんだ?」

「――うっ、セリオ」


 いつものように高慢な態度で、セリオがちょっかいをかけてきた。


「おい、なんでそんな気持ち悪い顔しているんだ。またその本か?」

「気持ち悪くないもん!悲しいんだもん!」

「悲しい?本ごときで――」

「だって、ジュダが死んじゃったんだよ!!」


 うぅっ声を漏らし、ニカは涙を拭った。


「そりゃあ、セリオには何のことかわからないだろうけど、私には一大事なんだよ――」


 そう言い張り、ぱっと顔を上げ、ニカは気が付いた。

 目の前のセリオが、カチコチに固まっていることに。


「え?セリオ?どうしたの――」


 そのとき、ニカは思い出した。


 そういえば、この本、私以外のしおりが挟まって――。


 ばっと振り返り、急いで本を確認する。


 確かに、本の間には、ニカのしおりと、そして覚えのないしおりが挟まっていた。

 ニカのものは第3章の終わりのページに。

 そして、もう一つのしおりは――――第3章の序盤のページに。


 ニカは思わずハァッと息を吸い込んだ。


「セ、セリオ?」

「――最っ低だ!!」


 途端、セリオは、目にいっぱい涙を溜め、大声を上げた。

 今生の恨みともいえるような視線が、容赦なくニカに突き刺さっている。


「ご、ごめ――」

「うっ、うっ、うっぐ――わぁぁああん!!」

「セ、セリオーー!!」


 謝罪など、聞き入れられるはずがない。

 セリオは大声で泣きながら図書室を走り去り、ニカはその背に手を伸ばして叫んだ。


「――何か、すごい悪いことしちゃったな、私。ネタバレ、ははっ」


 思わず苦笑いが口から漏れる。


 これは、埋め合わせが大変だ。


「ま、まぁ?それは後で考えよう!今は、『ポップ戦記』を読むんだから」


 完全なる現実逃避。

 自分の罪から目を背け、今はただ、次なる物語へと身を投じる。


 ニカはぱらりとページをめくった。


「『第4章 少女、深淵に触れる』」

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