第169話 決起パーティー
「冗談でしょう!?」
「決定事項だ」
朝っぱらから、食卓を挟んでいがみ合う二人。
そこには、渋い顔を浮かべるイヴェリオと、絶句するアンジェリーナの姿があった。
一体何があったのかというと――。
「はぁ!?冗談だろ!?」
「本当」
「な、なんで、“決起パーティー”なんてやることになったんだよ!」
それから約1時間後、アンジェリーナと同様に声を張り上げる男が一人。
アンジェリーナの自室にて、ギルが信じられないという表情で立ちすくんでいた。
「さぁね。まぁ、聞いたところによると、おじい様が勝手に決めていたらしいね」
「法皇様が?」
今朝、イヴェリオから告げられた衝撃事実。
それは、開戦を前に、王宮にて“決起パーティー”なる式典を開こうというものだった。
宣戦布告から一日。
いきなりそんなことを告げられては、アンジェリーナやギルが驚くのも無理はない。
「もともとその日に、舞踏会が予定されていたらしいんだけど、戦争が始まるってなって、中止にするかどうかと悩んだ結果――」
「じゃあ決起集会にしちゃおうって?」
「そう」
「だからって何も、6日後にやることじゃねぇだろうが!!」
そう、6日後。
アンジェリーナは長くため息をついた。
こうもやられると、もはや怒りを超えて呆れてくる。
普通に考えて、このスケジュール設定はおかしいでしょう?
それに、士気を高めるためだか何だか知らないけど、戦争前にこんなことするくらいなら、もっとやるべきことがあると思うんだけど。
「本当に、何やってるんだか」
「え、参加者は?警備体制とか俺、何も聞いてないけど」
「参加者は、もともと予定していた舞踏会の貴族がほとんど。それに加えて軍の上層部の人たちは招くだけらしいよ」
「いや、それじゃあ決起も何もねぇじゃん」
本当に、その通りである。
おじい様がどういうつもりなのかはわからないけど、きっと世間的な体裁を示したいだけなのだろう。
主に王家とかかわりの深い貴族の信頼を得る目的も含めて。
「で?なぜかお前も参加することになったと」
「そう。名目上は一大行事だからって。まだ成年王族でもないのにね」
結局、今回もおじい様の言いなりになって。
まったく、あの無能な王様は。
「というか上層部って言ったって、要はただのお偉いさんだろ?暇なんだよ。そういう人たちは。実際に計画を練ったり戦ったりするのは、もっと下の奴らだからな」
「確かに。現場の兵士さんは国のために力を尽くしているというのに、上の人たちは何を気にすることもなく、優雅な場所で酒を飲み交わしているだなんて――あ?ちょっと待て」
そこで突然、ギルは難しい顔で顎に手を当てた。
「6日後ってことはつまり――」
――――――――――
「え。パーティーですか?今週末に?」
「あぁそうだ」
「――急ですね、それは」
アンジェリーナとギルが王政に文句を垂れているちょうどその頃、ジュダはイヴェリオの執務室に呼び出されていた。
「すまない。こちらでも本当に昨夜決まったことでな。アンジェリーナにも今朝伝えたばかりだ」
「なるほど」
決起パーティーと名の付いた舞踏会。
もともと予定していた参加者に加えて、軍の上層を呼んだとしても、せいぜい変更は十数人だろう。
しかし、ここにアンジェリーナも出席となると――。
「警備計画などは?」
「そこは問題ない。前々から作られていた計画があるし、アンジェリーナを加えたバージョンも、早急に作らせている。今回、お前はアンジェリーナの護衛のみに徹してくれればいい」
「承知しました」
確かに、今の俺にそんな余裕もないしな。
「引き継ぎのほうはうまくいっているか?」
「はい」
ジュダは改めてビシッと姿勢を正した。
「ギルはもう、近衛兵となって3か月ですし、未成年の見習いとはいえ、仕事ぶりに問題はないでしょう。特別警備隊との定時連絡や書類仕事など、引き継がなければならない業務はまだまだありますが、おそらくは大丈夫かと。あいつは記憶力も良いので」
ジュダの言葉に、イヴェリオはふむふむと頷いた。
「なかなか大変だとは思うが、頼むぞ。6日後行われるパーティー、それがお前の、アンジェリーナの護衛としての最後の仕事となるからな」
「はっ!」
最後、か。
静かに礼を返しながら、ジュダはごくりと何かを飲み込んだ。
「お前、この後の予定は?」
「はい。アンジェリーナ様の護衛に戻ることになっています」
「そうか」
そう言うと、イヴェリオは何かを考え込むように、机の上で手を組んだ。
「少し、次の会議まで時間があるんだ」
イヴェリオはぱっと顔を上げて、ジュダを見上げた。
「もう少し話さないか?ちゃんと腰を据えて」
「え?」
――9月13日、午前。
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