第158話 顕現
魔法発動のためのコツを学び、アンジェリーナはさっそく、自身のオリジナル魔法の開発に取り掛かっていた。
魔法は、魔力+イメージ。
魔力はどうにかなるとして、まずはイメージを膨らませなくては。
イメージ――。
要はどんな魔法を創りたいかってことなんだけど――うーん。
アンジェリーナは手元の大剣に目を落とした。
この、時の宝剣は“時空間を操る魔剣”。
だから、繰り出される魔法もきっと、時空間に関連したものになるはずなんだけど。
時空間ってなんだ?
この言葉が、今のアンジェリーナの最大の障壁となっていた。
だって、時空間と言われても全然想像できないし。
時間と空間ってこと?
いや時間と空間の魔法って何?
あぁー、これじゃあ何のヒントにもならないよ。
――ヒント?
そのとき、アンジェリーナの視界にあの本が入った。
そうだ、ヒント!
アンジェリーナはばっと本を開いた。
まだ全部読めたわけじゃないし、もしかしたら何か参考になる魔法があるかもしれない。
アンジェリーナはパラパラとページをめくり、そしてある一つの魔法を見つけた。
「『テレポート』」
その名の通り、空間を瞬時に移動する魔法。
アンジェリーナは説明書きに目を通した。
『テレポート。ある地点から離れたある地点までを一瞬で移動する魔法である。その効果範囲は使用者の魔力量、および意思によって変化する。使用のためには、到着点の明確な特定が必要であり、『サーチ』などを使って、事前に座標を決めておかなければ発動できない』
「サ、サ、サーチ?」
アンジェリーナはすぐさま索引を開き、『サーチ』なる魔法が書かれたページをめくった。
『サーチ。自分の周囲の状況を探知する。効果範囲は使用者の魔力量、および意思によって変化する。探知する対象物は、物や人、環境(風の有無、植生等)など、多岐にわたるが、全員がすべてのものを探知できるわけではなく、探知できる対象物には個人差がある』
サーチ。
つまり、始めにこれをやって、テレポート先を探知してから、テレポートを使うってことか。
なるほど。じゃあまず、サーチが出来るようにならなきゃ。
アンジェリーナはその場に立ち上がり、剣を握った。
とはいえ、サーチってどうやればいいんだ?
私の場合、魔法の発動時には、杖代わりに常に剣を持っている必要があるだろうし。
なんか、この大剣を杖のように振り回すのは格好悪いしなぁ。
あ、そうだ。
ふと閃き、アンジェリーナは剣を地面に突き立てた。
こういう風に、剣を突き刺してやればいいんだ。
このほうが収まりがいいし、集中できる気がする。
よし、次は――具体的なイメージ作りだ。
アンジェリーナはゆっくりと目を閉じた。
何となくだけど、目を開けたままサーチしてしまうと、目に見える範囲しか探知できない気がする。
だから思いきって目を閉じてみたんだけど――。
アンジェリーナは暗い視界の中、静かに周囲の状況を窺った。
目から入ってくる情報が無いと、普段は気付かないようなことが感じ取れる。
例えばきれいな音色を奏でる鳥の声とか、そっと手に触れるそよ風とか。
あと周囲のことだけではない。自分のこともよく感じ取れる。
呼吸の音、心臓の拍動――。
拍動?
アンジェリーナは、ふとその言葉が引っ掛かった。
拍動。心臓の鼓動って確かに、心臓から出て、体の末端まで伝わっている。
心臓から周囲へ伝わる。
真ん中から周囲へ――あ!
そのとき、アンジェリーナは閃いた。
そうか、波だ!
心臓の拍動を伝えるのも波、音を伝えるのも波。
視界のない世界において、波はあらゆる情報を伝えるマスターピースなんだ。
もしこれを応用できれば――。
アンジェリーナはイメージを膨らませた。
心臓のように私から大きな波動を生み出し、周囲へ伝える。
その衝撃波はあらゆる対象物にぶつかり、そしてこちらへ跳ね返ってくる。
それを再び受信できれば――?
イメージが、固まった。
アンジェリーナはぎゅっと剣を握り直した。
そして静かに両手で上へ持ち上げる――。
次の瞬間、アンジェリーナは剣を地面に強く突き刺した。
「《
そう唱えた刹那、アンジェリーナは不思議な感覚に襲われた。
瞼の裏、外の景色など見えるはずもないのに、どんどんと視界が広がっていく。
森の草木、その葉っぱの先までとても鮮明に感じられる。
まるで私が波そのものになったかのよう――。
「ジュダ、一つ聞いていい?」
「あぁ?」
しばらくして、アンジェリーナは目を閉じたまま、後方のジュダにそう呼びかけた。
「ギルって今、腕立て伏せの最中?」
「ん?それが何か――」
「ジュダって今、首からタオル掛けてるでしょう?黄色の」
「――え?」
ジュダの驚いた声色が、全てを物語っていた。
やっぱり、合ってる。
アンジェリーナはそっと目を開け、後ろを振り返った。
確かに、ギルはただ今苦しい腕立て伏せの真っ最中。
ジュダはその隣でギルを見下ろし、黄色のタオルを首から下げている。
さっき、瞼の裏に見えた景色と同じ。
つまり、魔法は成功したんだ――!
凄まじい達成感と高揚感。
アンジェリーナはぎゅっと剣を握った。
しかし、アンジェリーナには一つ、大いなる疑問があった。
それは――。
「私さっき、何て言った?」
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