第3章 少女、心に惑う

プロローグ3

「はぁー。第2章もヤバかったなぁ。アンジェリーナ様の女王への道第一歩!新キャラも続々と出てきたし、第3章も楽しみ楽しみ!」

「また何ブツブツ言っているんだ、お前は」

「あ、セリオ」


 本を抱えてウキウキと飛び跳ねていたニカの後ろ、セリオがいつも通りの仏頂面で佇んでいた。


「そっちこそ。どうしていつも出くわすかなぁ」

「それはこちらのセリフだ。お前が共用スペースにいるのが悪い。そんなにその本が読みたいのなら、自分の部屋に持っていけばいいだろう?」

「バカ!こんな分厚い本、子どもに持っていけるわけないでしょ?」

「じゃあ自分のを買えばいいだろ」


 その言葉に、ニカはうっと黙り込んだ。

 その隙を逃すまいと、セリオがすかさず突っ込んでくる。


「あ、そうか。お前みたいな貧乏な家じゃあ、そんな余裕はないか」

「はぁ!?」


 ニカはバンと机に本を置いた。


 ニヤニヤとした嘲笑が鼻につく。

 ほんとこいつ、他人を見下す癖やめたほうがいいと思うんだけど。


「ところでそれ、どこまで読んだんだ?」

「え?」


 急な話題転換。

 ニカの苛立ちを知ってか知らずか、セリオは平然と真顔でそう尋ねてきた。

 拍子抜けというかなんというか。


「第2章がちょうど終わったところ。次は第3章」

「ふーん」


 え、何?それだけ?


 素っ気ないその反応に、ニカは訝しげにセリオを見つめた。


 質問の意図がわからない。

 もう。こっちは早く続きが読みたいのに。


 ニカは本に目線を移した。


 アンジェリーナ様の長編伝記。

 一人で楽しむのはいいんだけど、感想を共有できる人がいないのがネックなんだよね。

 第2章もいろいろと気になるところがあったし――あ。


「そうだセリオ」

「ん?」


 相手がセリオというのが少し癪だけど。


 ニカは体を屈め、声をひそめて尋ねた。


「10歳差ってアリだと思う?」

「は?何の話だ?」

「いいからいいから!」


 ニカは強めにセリオを急かした。


 散々嫌味言われてこっちの気分を害してくれたんだ。

 このくらい付き合ってもらってもおつりが出るくらいだよね。


 ニカの勢いに押されてくれたのか、セリオは少し考え込むように首を傾げた。


「まぁ、今の時代別に珍しいこともないだろ」

「なるほど。それからさ――」

「やめろ馬鹿。もう俺は行くからな」


 そう一方的に言い放つと、セリオは足早に去って行ってしまった。


 どうしたんだろう?いきなり焦った様子で。

 というか『やめろ』ってなんか不自然じゃなかった?


「ふぅ。まぁ、邪魔者もいなくなったし、続きを読みますか――ってあれ?」


 本を開こうとして、ニカは気が付いた。

 間にしおりが挟まっている。


 こんなところにしおり?

 前回読んだときはこんなもの挟まってなかったと思うんだけど。

 私は1章分一気にまとめて読んじゃうタイプだし。

 これ、第1章の途中みたいだけど――え、ということは誰か私の他にも読んでる人いるの?


 もしかしたら感想を共有できる同士がいるかもしれない。

 そんな期待に駆られながらも、今の段階でその人物を特定する方法もなく――。


「まぁ、いいか。気になるけど。それじゃあ、行きましょう!」


 ニカはページをめくった。


「『第3章 少女、心に惑う』」

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