第69話 集落跡
対面したジュダは不満そうな顔をしていた。
「それで?何をしてほしいのですか?」
「剣術を教えてほしい」
元気よくアンジェリーナは答えた。
「はぁ。ですからそれは――」
ジュダはそれでもなおいいごもり、首を縦に振らない。
アンジェリーナは頬を膨らませた。
「ぬぅ、じゃあじゃあとりあえずあのトリック教えてよ。あの消えるトリック」
「消えるトリック?」
「ほら、毎回毎回やって見せてるでしょ?始まったと思ったら、ばって消えて、ばって後ろに現れるやつ」
挑んでも挑んでもそれで瞬殺される。
結局タネが分からなかったやつだ。
「――あぁあれですか。でもあれは教えたところで」
「いいから!ほら、“不敬罪”」
ジュダの顔が引きつる。
ものすごく嫌そう。
そんな表情浮かべなくても。
それにしても、この短時間で完全に表情見せるようになったな。
でもこの方がなんか――。
「やらないんですか?」
ジュダはやるなら早くしろと言うように、こちらを急かした。
「え、うん。やる!――あ、でも」
「どうしました?」
アンジェリーナは辺りを見回した。
「ここじゃちょっと狭いかも」
今2人とポップがいるのは泉の前。
ある程度のスペースはあるが、いつも使っているダンスの稽古場と比べると、圧倒的に狭い。
「確かに、ここで剣を振るうのは少し危ないかもしれませんね。ま、普通にできるとは思いますけど」
「うーん」
でもせっかくの機会、できればもっと広いところで見たいな。
「仕方ねぇな」
やれやれというふうに、ポップは大げさに首を振った。
「付いてこい。とっておきの場所に案内してやるよ」
――――――――――
「うわぁ、なにここ」
促されるがまま歩くこと数分、アンジェリーナが目にしたのは、森の中にぽかんと広がる巨大な空間だった。
城の稽古場の2倍以上はある。
「ふん、驚いただろう」
「うん、すごい!」
ポップは得意げに鼻を鳴らした。
え、でも待って。
アンジェリーナはあることに気づいた。
「ポップ、私、禁断の森も結構探検した気がするけど、こんなところ一度も見たことないよ」
「そりゃそうだろ。俺が遠ざけてたんだから」
「え?」
「お前がここに入らないように、誘導してたの」
意味がわからない。
「ど、どうして?」
「俺なりに気を遣ったの、あのイヴェリオの野郎に。ていうか、自分でネタバレすんのもったいないような気がしたから」
「ん、ん、ん?」
アンジェリーナの頭はすっかりこんがらがっていた。
「異質だな」
「え?」
そのとき、隣にいたジュダがぼそっと呟いた。
「ここだけ木が全く生えていない」
「そういえば」
確かに、ここの空間だけ木が一切生えていない。
周りは暗い森なのに、ここだけは空も見える。
「人工的に作られたとしか考えられない」
「へぇ、鋭いね」
ジュダのつぶやきに、ポップはにやっと笑った。
そして、二人の目の前に出て行くとばっと腕を開いて見せた。
「ここはビスカーダの森の民の集落跡だ」
「――え!?」
アンジェリーナは心臓が跳ね上がった心地だった。
ここが、お母様が実際に暮らしていた場所。
そうは言われても――。
アンジェリーナは改めて辺りを見回した。
「何にも残ってないね」
「当然だろ。滅びてから何年経ったと思ってる」
「それはそうだけど」
一目見てみたかったというか――。
「それにしてもおかしいだろ」
「え?」
ジュダはポップを見て言った。
「その、ビスカーダの民?というのが何なのかは知らないが、人がいたのはもうずっと昔のことなんだろう?だとしたら、とっくに木が生い茂っていていいはずだ」
「あぁそれはそういう約束だったからな」
「約束?」
「いや、それは今はどうでもいいんだよ。それより、早く始めなくていいのか?兵隊さんよ」
「その呼び方やめろ。なんか癪だ」
今、すごい誤魔化されたような気が。
アンジェリーナの疑念をよそに、話はすり替わってしまった。
「姫様、それでは始めますか」
「あぁうん」
まぁいっか。
こうして実質初めてとなる、ジュダの剣術指導が始まるのだった。
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