第45話 この時よ永遠に
イヴェリオは氷のように固まったまま、完全に思考停止していた。
そう。断られるなど全く頭になかったのである。
フリーズしたイヴェリオを見て、ソフィアははぁと長いため息をついた。
「イヴェリオ様。あなた様は重大なミスを犯していらっしゃいます」
「え?」
ミス?ミスってなんだ?
私がソフィアの気持ちを勘違いしていたということか?
すでにボコンと強烈な一打を食らったイヴェリオの頭はぐるぐるするばかり。
全く働いてなどいなかった。
「本当にわからないのですか?」
その様子にソフィアはジト目でイヴェリオを見つめた。
し、視線が痛い。
ソフィアは再びはぁと、こちらに聞こえるようなため息をついた。
「イヴェリオ様。私はまだあなたに一度も『好きだ』と言われたことはありませんよ」
そのとき、イヴェリオの脳内を今までの記憶が駆け巡った。
「――あ」
今でも思う。
これまで生きてきた人生の中で、あの瞬間が最も情けないひと時だったと。
人生最大級の汚点。
何を隠そう、今まで恋愛経験など皆無だった私は、「好きだ」と言うことを完全に忘れていたのである。
「あの、その――」
気まずい雰囲気に、イヴェリオはソフィアのことをちらりと見た。
ソフィアはむすっと口を尖らせて、目をそらしている。
このままではいけない。
イヴェリオは一つ息を吐くと、背筋を伸ばし、改めてソフィアに向き直った。
「ソフィア」
イヴェリオの呼びかけに、ソフィアは目を合わせた。
「好きだ。結婚してくれ」
「はい」
イヴェリオの言葉に、ソフィアは柔らかに微笑んだ。
その瞬間、イヴェリオは一気に肩が軽くなるのを感じた。
同時に、どっと全身の力が抜ける。
知らないうちに相当緊張していたようだ。
その様子に、ソフィアはふふっと笑った。
「もっと早く言ってくださるものだと思っていました。それがまさか勝手に結婚するなどと宣言された後だとは」
「――悪かったと思っている。忘れて――」
「忘れません。一生」
ソフィアの即答に、イヴェリオはぐっと言葉に詰まった。
しかしすぐに笑いがこみ上げてきた。
それにつられるようにソフィアも声を出して笑い始めた。
恥ずかしいことも、くだらないことも、全部全部かけがえのない思い出になる。
いつかそれを振り返るとき、隣には彼女がいてほしい。
やはり私の妃は彼女しかいない。
その気持ちは今も昔も変わらない。
笑いが鎮まった後、二人は見つめ合った。
自然と顔が近づく。
「いいのか?まだ結婚前だぞ」
「これくらい、婚前交渉には入らないでしょう?」
「おい、前と言っていることが――」
「仕返しです」
ソフィアはいたずらっ子のようににやっと笑った。
ああもうこいつは――。
そうして二人は初めてのキスをした。
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