第24話 時の宝玉
「パンドラの箱?パンドラの箱ってどういうこと?」
アンジェリーナは困惑した。
思わずカウンターの上に身を乗り出す。
その様子に、店主は杖をまた一振りした。
するとどこからか、丸椅子がアンジェリーナの隣に飛んできた。
アンジェリーナはその椅子によじ登った。
「少しは落ち着きましたか?」
「ああまぁ」
店主は先程飛んできた本に手をかけた。
『時の
表紙には覚えのない単語があった。
“時の宝玉”?
「あなたが見たというのはおそらく、“時の
「と、ときのほうけん?」
「時空間を操ることができると云われている“時の宝玉”のうち一つ、“時の宝剣”です」
「えーっと、全然わかんない!」
初めて聞く単語の連続に、アンジェリーナの頭はパンクしていた。
店主は杖を振って、本をパラパラと開いた。
アンジェリーナは開かれたページをのぞき込んだ。
「これって魔法史だよね」
「ええそうです。時の宝剣および時の宝玉についてお教えするのならばまず、魔界創世記からたどっていかねばなりません」
店主はごほんと咳払いをして、語り始めた。
「世界に魔力がもたらされたとき、世界は混沌と化しました。それはもちろん、今まで空想上のものでしかなかった魔法がいきなり現れたのですから、そりゃ混乱するだろう、という話なのですが。実は、世界中が混乱した最も大きい原因は他にあります」
「他?」
「地殻変動です」
店主はアンジェリーナに問いかけた。
「今、魔界にはいくつの大陸があるかご存じですか」
「それはさすがに知ってるよ。3つでしょ」
「はい。魔界には現在、ユーゴン大陸、アデニ大陸、南極大陸の3つの大陸が存在します。ここポップ王国があるのはユーゴン大陸ですね」
すると店主は本に目線を落とした。
「ですが、魔法が発現した当初、今から約1700年前、大陸は全部で6つあったとされています」
「え!?6つも!」
ページの上には『魔法史紀元前の魔界』と書かれた地図が。
そこには確かに6つの大陸が描かれ、今の魔界とは全く異なる世界が広がっていた。
「え、じゃあどうして大陸が減っちゃったの?あ、もしかしてそれが地殻変動?」
「はい。約1700年前、魔力は、何の前触れもなく、世界に突然もたらされたと云われています。そのせいで何が起こったのか」
アンジェリーナはドキドキしながら次の言葉を待った。
しかし待てど暮らせど店主は何も言わない。
ん?と思って顔を上げると、店主は手のひらを上に向けて、手前にくいくいと動かしていた。
これは、なんだ?
アンジェリーナの思考は一時停止した。
えーっと。
よく見ると、店主の視線がどこかを指している。
たどってみると、そこには先程アンジェリーナが取り出した麻布の袋があった。
あ、あーお金ね。
アンジェリーナは袋の中から銅貨を1枚取り出し、店主の手に乗せた。
すると、店主は何事も無かったかのように、再び話始めた。
「時空は歪み、大陸は消滅、または統合して、100年も経たずに世界は現在とほぼ同じ形になったと云われています」
「100年って――スケールがよくわからない」
「ちなみに、過去、はるか昔、まだ恐竜がいたような時代では、大陸の分裂や誕生は何千万年、何億年といった長い時間をかけて発生したと云われています」
「え!?嘘でしょ」
それが、100年で起こったって一体?
一瞬でそんなことが起きて、人間生きていられるものなの?
というか世界が持つの?
「その当時世界人口は一時、現在の半分にまで減少したと云われています。大規模な地殻変動以降も自然災害などが相次ぎ、文字通り世界は壊れかけました」
「やっぱり」
「だからこそ、必要とされたのが、時空の歪みを正す矯正因子です」
「キョーセーインシ?」
「時空の歪みを直すもの、という意味です。そしてその一つとして作られたのが――」
アンジェリーナの頭の中で点と点がつながった。
「時の宝玉!」
「はい」
店主はそう言って本のページをめくった。
そこにはアンジェリーナが見たまんまの大剣と、もう一つ杖の絵が描かれていた。
「今現在魔界の存在する時の宝玉は2つ。“時の宝剣”と“時の
「時の宝剣」
「はい」
なになに?
『時の宝剣は長さ1.4m。幅30cmの大剣。柄だけではなく刀身にもバラや白鳥といった細かな装飾が施されており、それらは――』
え、あの剣って140cmもあるの?
私より全然大きい。
引き抜いたとき、自分の背丈ぐらいと思ってたけど、実際はもっと長かったんだ。
ていうか、確かに飾りもきれいだったな。何のモチーフかは今初めて知ったけど。
ふと、文章を読み込んでいくうちに、アンジェリーナはあることに気づいた。
「あのさ、時の宝剣って本当にすごいものなんでしょ。ほら、さっき時空間がどうとかも言ってたし。――あれどういう意味か分からないけど。だったらどうしてお城の地下なんかにあったの?」
アンジェリーナは本から顔を上げて店主を見上げた。
「すごいひっそりと置きっぱなしにされていたけど、もっと有名になっていてもおかしくないんじゃない?まるで隠しているみたいに――」
「すごいからこそ隠さなければならない、ということもあります」
「え?」
すると店主はまた手をくいくいと動かした。
え、またか。
アンジェリーナはパチンと銅貨をカウンターに置いた。
「では次に、時の宝剣が、実際に使われてきた歴史について、お教えしましょう」
銅貨を受け取り、店主は新たなページを開いて、再び話し始めた。
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