第4話 ポップ
「ひーまーーー」
アンジェリーナは椅子にもたれて、大きく仰け反った。
そして机に突っ伏す。
「はぁ苦行だ」
今日は罰として一日部屋ごもり。
アンジェリーナは一切部屋の外へ出ることを禁じられている。
それがどれほど徹底的かというと――。
アンジェリーナは立ち上がりそっと廊下の様子を伺った。
使用人とばっちり目が合う。
アンジェリーナはすぐに扉を閉め、再び机に突っ伏した。
扉の外にはずっと使用人が待機。
間違っても私が外に出ないように見張ってる。
それにさっきご丁寧に部屋に朝食まで運ばれてきた。
食堂も行かせてくれないって。
「いや徹底しすぎでは!?」
アンジェリーナは机をバンと叩いて立ち上がった。
イヴェリオは断固としてアンジェリーナを一歩も部屋の外に出すつもりはないらしい。
参ったな。前にも部屋ごもりの罰は受けたことあるけど、なんだか前よりも警備が徹底している気がする。
いやまぁ、前回、前々回と脱走したからなんだろうけど。
「はぁ仕方ない。本でも読むか」
立ち上がりついでにアンジェリーナは本棚へ向かった。
たくさん置かれた本の背表紙を指でなぞる。
ど、れ、に、し、よ、う、か、な。
アンジェリーナの指がピタッと止まった。
そこには『ポップのめぐみ』の文字があった。
アンジェリーナはその本を取り出してめくった。
「『ポップは神の宝玉』、ね?」
――――――――――
今から約200年前、世界は大災害に見舞われ混乱していた。
それは現在のポップ王国である、当時のチュナ王国も例外ではなかった。
多発する地震に洪水、干ばつ。
自然の猛威に人々の暮らしは困窮していた。
そのとき、突如として天から何かが降ってきて、チュナの大地に激突した。
たちまち、落ちたところからまばゆい光があふれ、チュナ王国全土を覆った。
チュナの国民は皆思った。世界の終わりだと。
しかしどういうことだろうか。世界は終わるどころか、次第に人々は体の底から力がみなぎってくるのを感じた。
それだけではない。やがて大地の揺れは鎮まり、嵐は止んで雲間から太陽が顔を出し、枯れていた川に水が戻り、チュナは命を吹き返した。
人々はこれを天からの恵みだとして、落ちてきた得体の知れない何かを崇め奉った。
それから人々はその落ちてきた何かを必死で探した。
そしてそれがとてつもない量の魔力を持った石であることを特定した。
『弾ける光』という意味で名づけられた石。
それが“ポップ”である。
その後人々はポップの研究を始めた。
注目したのは、ポップが降り立った時から体の中に湧き続けている謎の力である。
明らかに今までの魔力とは違う何か。
研究に研究を重ねた結果、人々はその力を利用する技術を開発することに成功した。
そして、ポップがもたらした力を“ポップ魔力”、開発した技術を“ポップ魔法”と名付けた。
ポップ魔法が今までの普通の魔法と異なる点は大きく二つある。
一つ目は、ポップ魔力はポップ王国で生まれた者のみが保有しているということ。
要は、ポップ魔法はポップ王国民限定の魔法なのだ。
二つ目は、ポップ魔法はあらゆる魔道具を介してのみ使うことができるということ。
普通の魔法は、杖を使って呪文を唱えることで発動させるが、実は杖がなくても魔法が使える。この場合、杖は主に魔力の調整器具であり、魔法を発動するための補助アイテムなのだ。
一方で、ポップ魔法では、魔道具を用いずに発動させることは不可能である。
そもそもポップ魔法はポップ魔力を使えるように開発した技術。
魔法と名付けてはあるが、普通の魔法とは意味合いが少し異なるのだ。
ではポップ魔法は日常、どのように使われているのか。
例えば水道や電気といったライフラインもすべてポップ魔法により動かしている。
また、杖を用いない分、武器として魔剣や魔弓が開発されている。
実際、王国軍では魔剣や魔弓が大量に用いられている。
さらに、ポップ魔法の優れている点として挙げられるのが、その平等性だ。
ポップ魔法は呪文を用いない。
魔道具は、すべてあらかじめ用途が決まっている。
例えば、魔剣は身体強化や斬撃を飛ばすことに特化しているものなど、様々な種類が存在している。
しかしどれも一度製造してしまうと魔法の種類を変えることはできない。
だが一方で、ポップ魔法は単純な分、誰でも簡単に使うことができる。
ゆえに、魔法の使える使えないによる優劣が少なく、ポップ王国は自らを、差別の少ない国だと掲げている。
このように、ポップは人々の暮らしをがらっと変え、独自の文化を生み出し、国を豊かにした。
このことからポップ国民はポップを『神の宝玉』と崇めるようになったのである――。
――――――――――
そこまで読んでアンジェリーナはぱたんと本を閉じた。
「――なんて言いはするけど、そんなにいいものかな?」
アンジェリーナは本を棚へ戻し、うーんと伸びをした。
これからどうしよう。まだ朝だし。
やっぱりじっとしてらんないよな。
アンジェリーナは扉の方を見た。
扉の前は厳重そのもの。
さすがに飛び出してはいけないよね。
かといって――。
アンジェリーナは窓から外を見た。
この高さから飛び降りるのは自殺行為。
今日は脱走は無理か、な?
そのとき、アンジェリーナの視線は外のある場所で釘付けになった。
もしかして?
アンジェリーナはクローゼットへ走った。
ドレスの森の中から布に隠してあった服を取り出して、手早く着替える。
鏡に映ったアンジェリーナが来ていたのは、ところどころ汚れたつなぎだった。
そしてアンジェリーナはベッドのシーツを強引にはがし、窓へ向かった。
よし、行こう。
アンジェリーナは窓に足を掛けた。
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