第1話 王城探検

 むかしむかし。

 魔法で満ちた世界、魔界。

 ユーゴン大陸の東の王国、ポップ王国にお姫様が生まれました。

 お姫様はアンジェリーナと名付けられ、大事に大事に育てられました。

 そして時は流れ、これはアンジェリーナ8歳のとき――。


 ――――――――――


「姫様!どこにいらっしゃいますか、姫様!」


 城中に声が響き渡る。


「姫様!姫様!」


 どたどたと足音がうるさく響く。

 一人だけではなく、使用人、巡回兵総出で姫を探し回っているようだ。

 別に姫が迷子になったわけでも誰かに攫われたのでもない。

 これがポップ王城の日常なのだ。


 使用人の一人が廊下を通り過ぎる。

 すると長い廊下の柱の裏側、小さな少女が顔を出した。


「ふぅ。今のはあぶなかったな」


 少女はしゃがんでいた体をうーんと伸ばす。


 このちょっと、いやかなりおてんばな少女こそが今作の主人公、アンジェリーナ=カヤナカである。

 ポップ王国ただ一人のお姫様として、それはそれは大切に育てられたアンジェリーナは、元気すぎるほどに成長していた。


 みんな騒ぎすぎなんだよ。もうちょっと自由にしてくれてもいいのに。


 アンジェリーナは今一度柱の陰から廊下を確認すると、とことこと走り出した。


 今日は初めてもう一つの建物に来たんだ。まだまだ捕まるわけにはいかないよね。


 廊下の突き当たり、アンジェリーナはそろっと顔を覗かせた。

 先程までいた廊下は格子付きの窓があって明るかったが、ここから先は薄暗い道が続いている。壁に掛けられたランプがオレンジ色に辺りを照らしていた。

 アンジェリーナはきょろきょろと周りを確認すると、未知の領域へ一歩を踏み出した。

 どうやらここは仕事部屋が続いているようだ。扉を隔てて話し声が聞こえてくる。

 アンジェリーナはそっと扉に耳を押し当てた。何を話しているのかはよくわからないが、どうやら中の人たちは会議の真っ最中のようだ。しばしば大きな声が張り上げられるのが聞こえる。


 白熱してるみたい。いいなぁ。


 そのときだった。


「姫様!姫様!」


 再びアンジェリーナを呼ぶ声が響いてきた。

 アンジェリーナは、突然の不意打ちにびくっとなり、そして思わずもたれていた扉にぶつかってしまった。

 扉ががたっと音を立てる。


 あ、まずい。


 アンジェリーナは危機を察知して、廊下に戻ろうとした。

 しかし廊下にはすでに数人の使用人の姿。しかもこちらに向かってくる。


 や、やばい。どうしよう。


 アンジェリーナはその場でくるくる回っていた。

 その間、アンジェリーナは気づかなかった。

 扉の向こうから足音が迫ってきていることに。

 そして扉が開いたとき、アンジェリーナの冒険は終わりを告げたのだった。


「こんなところで何をやっている」


 アンジェリーナを見下ろすその男は、冷たい目をしていた。


「お、お父様」

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