スーパーと彼女
近くのスーパーまでは約二十分。
たわいもない話をしながら横に並んで歩き、横目でちらちらと彼女の様子をうかがう。
あんなことがあったのに柚はかなり落ち着いている。
なんとも思っていないからなのかと少し落ち込む。
そう思うのはおかしいのかもしれない。
でも、僕にも男としてのプライドのようなものは一応ある。
「はぁ~」
ついため息が出てしまった。
何とかごまかすために言葉を紡ぐ。
「今日いろいろあったからちょっと疲れたね」
ごまかし方としてはかなり下手なのかもしれない。
それでもなにも言わないよりはましだろう。
「そうだよね、いろいろあったもんね」
普段と変わらないトーンでそう彼女は答える。
本当に気にしてないのだろう。
彼女のその言葉にまた落ち込む。
気のせいかいつもよりスーパーが遠い気がする。
心の中で早くスーパーについてほしいと願う。
スーパーに着き買い物かごをもつ。
「何買うの? 」
柚が僕の顔を覗き込みながら聞いてくる。
「ん~、時間も遅いし今から作るのは無理だからなぁ」
「明日も学校あるもんね」
「うん、出来合いのもの買おうかな? 」
「そうだね、それがいいかも」
お惣菜のコーナーに行き選ぶ。
「うーん、どれもおいしそうだね」
唇に手を当てながら悩ましそうに総菜を見る。
そんな彼女を見てくすっと笑ってしまう。
柚の好きなことの一つが食べることでそれは幼いころから変わっていない。
それに唯香とも重なりやっぱり二人は姉妹だと思う。
「何で悩んでるの? 」
「ん~、お蕎麦かパスタか親子丼で悩んでる」
本当に悩んでいるのだろう。
柚が悩んでいるときに取る行動が出ている。
彼女は悩むと手を組み、親指をパタパタと動かす。
「それなら三つとも買おうよ」
「食べたい分だけ取ってシェアすればいいし」
そう言うと彼女は嬉しそうな顔をする。
「え、いいの? 」
彼女の反応を見て買い物かごにその三つを入れる。
そのままレジに向かおうとしたが足を止めた。
「優希?どうしたの? 」
不思議そうに聞いてくる彼女。
「あぁ、ほかにも買うものあるの忘れてただけだよ」
「そう?じゃあ、買いに行こうよ」
「いや、悪いからいいよ。ちょっと袋詰めのところで待っててもらってもいい? 」
「気にしなくていいのに。まぁ、待ってるね」
少し寂しそうな顔をしてレジから離れる。
彼女の顔を見たとき心がずきずきと痛む。
その痛みから逃げるように忘れていたものが置いてあるコーナーに行く。
レジで会計を済ませ彼女の待つ袋詰めのところに向かいマイバックに詰める。
「あれ?何か買ったんじゃないの? 」
「うん、買ったよ」
「え、ないけど?いいの? 」
「まぁ、後で分かるから」
「ふーん、そうなんだったらいいや」
何とかごまかせたと思う。
でも、ずっと僕を見ている気がする。
スーパーから出て少し歩いたところで立ち止まり、自分のカバンに入れたものを取り出す。
実は会計を終えて彼女がいる袋詰めの場所に行く前にこっそりとカバンに入れていた。
「柚、これもらってくれる? 」
そう言いプリンを手渡す。
プリンは柚の大好物。
「え、プリン?うれしいけどなんで? 」
今日が誕生日やお祝い事があるわけではないので当然の疑問だろう。
彼女の疑問に答えるのは正直照れ臭い。
それでもいつかは言わなければならないことだ。
目を閉じて深呼吸し、目を開ける。
「ずっと柚には感謝してるんだよ」
「だからこれは感謝の気持ちなんだ」
「いつもありがとう。柚」
そう言うと柚は泣き出した。
大粒の涙をぽろぽろと流しその場に座り込む。
僕はそんな彼女に何もできずにただ泣き止むを待つことしかできなかった。
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