叔母との時間

 簡単に何があったのかを説明したところで叔母は天井を見て目を閉じる。

数秒沈黙が続いた後、目を開けて正面を向く。


 「そっか、そんなことがあったんだ」


 そう言うと伸びをして、冷蔵庫のほうに行き缶ビールを取り出す。

タブを起こして開け口に含みごくごくとのどを鳴らし飲む。

ドンっと缶を置き、ため息をつく。


 「まぁ、まだまだ若いねぇ」


 「大人になったらそういうのは当たり前にあるもんだよ」


 「そうなの? 」


 「あぁ、よくあることさ。私の周りにも何人かいるよ」


 「そうなんだ、よくあることなんだね」


 友達の恋人を奪うことがよくあると言った叔母に衝撃を受ける。

本当だとしたら大人はすごい。

僕らがいま悩んでいることを普通にしていることになる。

なら今悩んでいるのは馬鹿なのかもしれない。


 「じゃあ、今悩んでるのは馬鹿なことなの? 」


 考えていたことが口から出た。


 「それは違う、馬鹿なわけじゃない」


 「みんな優希と同じくらいの年のとき悩むもんだ」


 「悩んで苦しんで後悔してみんな大人になっていく」


 「それが成長ってもんで、青春ってもんなんだよ」


 普段の叔母とは違い、まじめな顔でそう言うと優しく僕を抱きしめた。

お酒の匂いがして離れようとするも逃れられない。

いつの間にか僕を抱きしめる力が強くなっていき、息がしづらくなる。


 何とか叔母の腕をタップし離してもらうことには成功した。

そのまま距離を取ろうとしたがまた捕まる。

ここであることを思い出す。

そういえば叔母は酒に弱くすぐに酔っぱらう。


 酔っぱらった叔母は人に抱き着く習性があり、一度抱き着くと自分が満足するまで離れない。

それに加えて叔母は普段見せないが甥である僕を溺愛している。


 小さいころ叔母が家にいるときはずっと僕の近くにいた。

一緒にお風呂に入ったり寝たり遊んだりしてくれていたことを覚えている。

確かあの当時叔母は中学生くらいだったはずだ。

本当なら友達と一緒に遊んだり恋人を作ったりしたかったんじゃないかとつい考える。


 いまも本当なら仕事以外のことをしたいんじゃないだろうか。

そう思うとこのまましばらくいることで多少の恩返しになるかもしれない。

ここは叔母が満足するまで我慢しようと思う。

でもやっぱり酒臭い。


 数分経ってようやく解放される。

地べたで寝た叔母を叔母の部屋に連れていこうと思う。

この家には全部で3部屋あり、両親の部屋と僕の部屋のほかに空き部屋がある。

その空き部屋にベットを買い入れたことで叔母の部屋にした。


 叔母をどう運ぶか悩んだ結果、お姫様抱っこをして運ぶことにする。

正直持ち上げられるか不安だ。

実際に持ち上げてみるとそれは不安に思う必要がないくらいに軽い。

そういえば身長もいつの間にか叔母を越していた。


 そんなことを考えながら叔母をベットに寝かせ布団をかける。

幸せそうな顔で眠る叔母をおいて部屋を出た。

そのタイミングで柚が僕の部屋から出てくる。


 「未希叔母さんは? 」


 「酔っぱらって眠ったから部屋に寝かせたよ」


 「そっか、じゃあ行こうか」


 叔母を音で起こさないようにそっとドアを開けて鍵をかけスーパーに向かうことにした。




 



 



 






 


 

 

 



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