彼女と彼女の戦い?

 家につき少しだけ時間をもらい軽く掃除し、三人のスリッパを用意する。

この前柚が家に来た時に用意しておいた方がいいかもしれないと思いすぐに買っておいてよかった。


 外で待つ三人に声をかけ家に上げる。

柚は一度来たことがあったため何も気にせずに入ってきたが、二人はここで違和感を感じたようだ。


 何に違和感を感じているかは容易に想像できる。

この家には人の気配がない。

これは柚も感じていたことだ。

たぶん二人もそれに気付いている。


 さっきから二人が顔を見合わせては何かを聞こうとしているように思う。

聞かれる前に先に行ってしまおうと決め、リビングに案内したところで座ってもらう。

冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し人数分のコップに注ぐ。

それを持ちそれぞれに渡す。


 「何となく気づいてるかもしれないけど、今一人暮らししてるんだ」


 「両親が別のところで料理屋をやってて、僕もついてくるか聞かれたんだけど残ることにしたんだ」


 「やりたい事をやっとできるのに僕がいたら邪魔しちゃうかもしれないってのもこっちに残る理由だったんだよね」


 「まぁ独り暮らしは気楽でいいよ。いつでもこうやって友達読んでも怒られないからね」


 最後に冗談っぽく笑って見せたが二人は笑わなかった。


 「そうは言うけど大変だろ? 」


 「そうだよね、大変じゃないの? 」


 心配そうに聞いてくる二人。

心配してくれるのはありがたいがそれよりも申し訳なくなる。


 「うん、まぁ大変なこともあるけど気が楽なのは本当だよ」


 こう答える以外方法はなかった。


 「そうか、なんかあったら俺を頼ってくれよ」


 「私も何かあったら頼ってほしいかな」


 いろいろと察してくれたのかそう二人は返してくれる。

柚も黙ってそっと手を握ってくれた。

その彼女の行動に鈴が突っ込む。


 「ずっと気になってたんだけど二人ってどういう関係なの?」


 前のめりになり聞いてくる。

そのしぐさを素直にかわいいなと思う。


 そういえば、奏多には説明したが彼女には説明していないことを今思い出す。

どう伝えればいいのか悩む僕を置いて柚が先に動く。


 「私と優希は幼馴染だよ。で、付き合ってるんだよね」


 まさかの発言に固まってしまう。

それは彼も彼女も同じようでしばらく沈黙が続く。

固まっている僕ら三人を置いて柚はどんどん僕との距離を詰めてくる。

気づけば腕を組まれて逃げ出せない状況になっていた。


 「そうなんだね!幼馴染同士で付き合ってるのってなんかいいね」


 「ってことはここにいる四人でダブルデートできるね」


 一瞬鈴の顔が曇ったように見えたのは気のせいだろうか。

そのことに気を取られて重要な部分を聞き逃したことに気づいたのは数秒後。


 「そ、そうだね。今度ダブルデートしようよ」


 柚がそう言ったことで気づく。

確かにそういうことができる。

でも、お互い本当の恋人ではないし奏多にはそのことを伝えていた。

彼の顔を見るとあきらめたような表情をしている。


 彼女たちの謎の戦いが始まったしまった。

仲良くなったわけではなかったことに気づき、今後もこういうことに巻き込まれていくことになるのだろうと先を考えて憂鬱になる。


 「そういえば今何時だ? 」


 この場から早く逃げ出したいのかかなたが話を逸らす。

時計を確認するといつの間にか十九時になっていたので今日は解散することになった。


 二人が帰る準備を進めるなかなぜか柚は準備をしていなかった。


 「九重さんは帰らないの? 」


 鈴が気になったようで彼女に問う。


 「ちょっと二人で話したいことがあって、もしかしたら泊まることになるかも? 」


 「優希、泊まっても別にいいよね? 」


 また柚の言葉で三人が固まった。

いち早く動いたのは鈴で少し怒っているように見える。

でも、口に出すことはない。


 奏多の手を取るとそのまま腕を組み、玄関へと向かう。


 「じゃあ、お邪魔しました」


 口調がいつもより強い気がして、最後に柚をにらんでいたように見えた。

二人を見送り家に柚と二人きりになる。

なんだか緊張してしまうがいつも通りをできる限り装う。


 きっと冗談で言ったはずと心の中で言い聞かせる。

本当に何か話したいことがあるのだろう。


 とりあえず落ち着くために冷蔵庫からお茶のペットボトルを出しコップに移しゆっくりと飲む。

少し落ち着いたのでコップを洗いながら彼女が動くのを待つことにした。


 


 





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