鈴と柚1
二人は僕と柚に待たせたことを謝ってくる。
それに対して僕と柚も二人に謝り、四人で笑い合いそれぞれの靴箱から靴を出し履き替える。
そういえば気になることが一つありそれは二人のことだ。
柚と鈴は話したことがあるのだろうか。
クラスも違えば中学も違い接点という接点がない。
それに奏多を好き(?)な柚にとって鈴はあまりよく思っていない相手だろう。
一応彼にも伝えておいた方がいいかもしれない。
そう思って奏多を見ると彼も同じことを考えていたようで、彼女たちに直接聞く。
「そういえば二人って話したことあるっけ?一回も見たことないんだけど」
さらっと聞ける彼を僕は尊敬する。
自分だったら絶対にできないことだから。
「ん~、話したことはないかもしれないね。ね、九重さん」
そう言った彼女に対し違和感を覚える。
普段クラスメイトに対して話す声よりも少し低い気がした。
二人の間に何かあるのかもしれない。
でも勘違いだということもあり得る。
「そうだよね。宮守さんはそう言うよね」
柚の口調で確信に変わった。
この二人には確実に何かある。
そこに踏み込んでしまっていいのかと悩んでいるうちに彼女の口から答えのようなものが出た。
「小学校のとき話したことあるんだよ。まぁ覚えてないだろうけど」
怒っているのか彼女は言葉にとげを持たせた状態で話し続ける。
「五年生のとき同じクラスだったこともどうせ覚えてないんだよね? 」
「私と私の友達に何をしたのか覚えてないからそんな態度とれるんだよね? 」
「覚えてたらそもそも関わろうとしないもんね?ねぇ、なんか言ったらどうなの? 」
「私と話したくないの?なら私先に帰るけど?ねぇ」
ここまで感情を表に出す彼女を見るのはこれが初めてだった。
それに自分から提案したことなのを忘れている。
四人で帰ろうと言ったのは柚だ。
本来なら昔のことを流して自分が言った通り四人で帰るという選択をするはず。
それなのに柚は怒りを表にだし自分が言い出したことを否定している。
どう声をかければいいのかわからず彼を見た。
奏多なら何とかしてくれそうだと思ったから。
でも彼は動こうとしなかった。
正確に言えば動けなかったのだろう。
二人の問題を知りもしないで他人が口出しするのは間違えているとそう考えていてもおかしくはない。
鈴は何も言わずに口を閉じたまま、まっすぐ柚を見ている。
柚は彼女から向けられた目で少し冷静になったようで自分の頬を手ではたく。
その行動に鈴は驚く。
柚の頬に触れ心配そうに見つめる。
その手を彼女は取り、泣き出す。
「宮守さん、ごめんなさい。私ひどいこと言った」
そういう柚をやさしく抱きしめて背中をポンポンと叩く。
「大丈夫だよ。私もごめんね」
内心ほっとした僕はよかったと心から思った。
でもこの二人の出来事が始まりに過ぎなかったことを後々知ることになる。
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