柚のききたいこと

 その結果、柚に注目が集まった。

彼女はその向けられた視線に思わず後ずさる。

約三十人に注目されるというのはなかなか経験することではなく、恐怖に近いものを感じていてもおかしくない。


 それでも彼女は教室から出ようとしなかった。

もう一度胸の前でこぶしに力を入れ口を開く。


 「ね、帰ろうよ一緒に」


 声が少し震えていた。

やっぱり怖いと思っているのだろう。

さっきは何もできなかったがここは動かなければならないと思い動く。


 「そうだね、四人で帰ろう。話したいこともあるし」


 僕も僕で声が震えていた。

でも声が裏返らなかったのは自分にしては上等だろう。


 柚の隣まで歩き、彼女の手をつなぐと安心したのかいつも通りの彼女に戻る。

このままいるわけにもいかず二人にひとこと言って教室を後にしようと思う。


 「先に柚と下駄箱に行くから後から来てよ。待ってるから」


 そう伝えすぐに柚と手をつないだまま教室を後にする。

いつもより足早に下駄箱へと向かう。


 下駄箱につき彼女とつないでいた手を放す。

勝手なことをしてしまったので彼女に謝らなければならないとそう思い柚を見ると下を見ていて顔が見えない。

怒っているのかもしれないと恐る恐る声をかける。


 「柚、さっきはごめん。勝手なことして」


 そういった直後彼女は笑い出した。

ひとしきり笑った後口を開く。


 「なんで謝るの?優希ありがとね」


 「助けてくれたんでしょ?だったら謝らないで」


 柚は僕の行動をいいようにとりすぎている。

実際はあの空間にあれ以上いるのが嫌で巻き込んだだけなのに。

心の中で感謝しながら二人が来るのを待つ。


 僕と柚の間にある気まずさはまだ残っている。

この気まずさは早くなくしたい。

そこで、待っている間に彼女が聞きたいと思っていそうなことを話すことにした。


 「そういえばこの前柚を送った後、唯香さんに会ったんだ」


 「近所のファミレスに行ってご飯を食べながら少し話したよ」


 そういうと柚は少し怖い顔をする。

少し考えて口を開く。


 「それは知ってる。お姉ちゃんが言ってたから」


 「ねぇ、優希そこで何を話したの?お姉ちゃんに聞いても答えてくれないんだ」


 やはりそれが気になっていたみたいだ。

僕としては話してもいいとは思うし隠し事はしたくない。

でも、唯香が話していないということは知られたくないということだろう。

誤魔化すしかないが変に隠すと彼女は気づくはずだ。

だから僕は悩みはしたが正直に答えることにする。


 「唯香さんが言うにはあの二人本当に付き合っているわけじゃないんだって」


 「それと柚のことをちゃんと見てあげてって言われたよ」


 全部正直に話して彼女のほうを見る。

柚は驚きはしたもののすぐに納得したみたいだ。

たぶん薄々気づいていたのかもしれない。


 「そっか、そうなんだね。お姉ちゃんには


 「正直に話してくれてありがとうね」


 彼女は優しく微笑むと僕の手をつなぐ。

柚が口を開こうとしたタイミングで二人が来た。

僕の耳元でボソッと「また今度話すね」と言い、二人のほうに歩いていく。


 柚の行動が気になりながらも考えないようにする。

きっといつかわかることだろう。

そう思い僕も二人のほうに向かった。

 



 








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