作戦開始
話す順番を間違えないように気をつけながら口を開く。
「柚の好きな人知りたいですか? 」
まずはこちら側の優位を持っておく必要がある。
この人を相手にするためには最低限必要なことだ。
そうわかっているが怖いものは怖い。
普段なら絶対乗ってこないはず。
でも今回は大好きな妹のことなので間違いなく乗ってくる。
「知りたい!教えて」
予想以上の食いつき方にほんの少し引いてしまう。
対面に座っていたはずの彼女の顔が目の前にきた。
その距離がキスされた時のことを思い出させ、顔が熱くなるのを感じる。
目を見ることができず下の方を向く。
この選択が間違いで僕の顔はさらに熱を帯びることになった。
そこにあったのは無防備な胸元で谷間が見えそうになったのをすぐに目線をさらに下に落としたことで見ないようにする。
顔の熱がなくなるまで前を向けずにいた。
恥ずかしがっていることがばれたら優位性を失ってしまうから。
気持ちを落ち着かせるために水を飲む。
(落ち着け、落ち着け)
何度も心の中でそうつぶやく。
顔の熱がなくなったところで頭を上げ正面を見ると彼女はまだ近いままだった。
心なしかさっきより近い気がする。
これは指摘するしかないと思い彼女に言うことにした。
「近いんで離れてほしいです。それに見えてます」
恥ずかしさを隠しながら伝えられたと思う。
彼女の顔を見ると不思議そうな顔をしている。
「見えるって何が・・・・・・」
そういい自分の胸あたりを見て数秒止まった。
今の自分の状況を見て理解したのだろう。
彼女にしては珍しく表情に出て、若干涙目になっているように見える。
さっと距離をとると恥ずかしそうに服装を整え顔を手で覆う。
このタイミングで頼んでいたパスタとピザが届く。
気のせいだとおもうが店員さんが少し気まずそうにしていた。
この空気感に堪えられなくなり話を戻す。
それにこのままじゃせっかくの料理が冷めてしまう。
温かいうちにたべるほうがおいしいのもある。
「柚の好きな人はうちのクラスの天瀬ってやつですよ」
名前を聞いて彼女の肩がぴくっと動く。
恥ずかしがっていたはずだが、正面を向いたときいつも通りの表情になっている。
数秒後、手を顎あたりにあて何やら難しい顔をし僕をじっと見て口を開く。
「天瀬ってもしかして下の名前が奏多? 」
返事の代わりに頷くことで返す。
また難しい顔になりしばらく無言が続く。
次に彼女の口から出た言葉で僕の頭はぐちゃぐちゃになる。
「たしか、恋人がいるよね。本当に付き合ってるわけじゃないみたいだけど」
(え、今なんて言ったんだ?)
聞き間違えていなければ本当に付き合っているわけではないと言った。
彼女の口から出たその言葉が本当なのかどうなのかわからない。
でも、彼女は噓はつかないはずだ。
そうなると彼女が言っていることは本当なのかもしれない。
それに引っかかっていた彼の反応が以前よりもわかる。
いままでは推測の域を出なかったものが確信に変わってしまう。
疑問に思っていたことが正しかったとすると、その理由を知っていそうな唯香の存在は大きい。
だから彼女と良好な関係を築いておくことが大切だ。
彼女に聞こえないようにため息をつき覚悟を決める。
唯香に好かれる方法を考えつつ、立てていた作戦は進めていきたいと思う。
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