彼女との初めての戦い
数分後、ズボンのポケットに入れているスマホがぶるぶると振動したので確認する。
[こうなるとお姉ちゃんてこでも動かないからいったん付き合ってることにしてもいい?]
柚からメッセージが送られてきていた。
返事の代わりに彼女をみて頷く。
その僕の反応を見て彼女も頷き、姉を見て口を開こうとする。
でもそれより先に唯香が動く。
「まぁいいよ。いまのでなんとなくわかったから」
「あんた、なかなか面白いことになってるじゃん。いつでも私に相談しなね」
「じゃあ私は先に帰っとくからちゃんと送ってもらいなね」
そういうと立ち上がりすぐに家のほうへと歩いていく。
今日はかなり意外なことが多く起きている。
例えばいま唯香がとった行動は普通ならあり得ない。
ほかにもいろいろあるが、ある程度覚悟して話そうとした彼女の様子が気になる。
柚は僕以上に衝撃を受けているように見え、姉が歩いた方を見て固まっていた。
彼女に対する苦手意識を持っているがそれは信頼の裏返しでもある。
誰よりも唯香のことを知っていて誰よりも彼女の力になりたいという思いが柚の中にあるのは見ていれば気づく。
このまま放置するわけにはいかない。
前みたいに肩に触れるのもありだが、今回はあえて耳元で囁く。
「ここにいてもあれだし、帰ろうよ」
彼女はすぐに僕から距離をとると右耳を手で覆い、訴えたそうな目を僕に向ける。
何かを言おうとしたように見えたが諦めたように溜息を吐く。
「そうだね、帰ろっか」
唯香に遭遇するまでの距離間ではなく人一人分の距離が開いている。
一度流れた気まずさはそう簡単になくなることはないのだろう。
仕方ないことだとはわかっているが少し寂しい。
何も話すことなく歩き彼女の家の目の前までついた。
これであとは自分の家に帰るだけだ。
彼女に背を向け、自分の家へと帰ろうとする。
「送ってくれてありがとう」
そう小さい声で言って手を振る彼女に対し、手を振り返し歩き出す。
5分ほど歩き横断歩道で信号機が変わるのを待っているとき突然視界が暗くなる。
誰かの手で目隠しされていると瞬時に理解したのと同時に恐怖を感じた。
その行動をした相手の正体に気づいているから。
柚の家に着いたときから気づいていた。
彼女が家のドアを少し開けたときそこにあるはずのものがなくおかしい。
僕たちより先に帰っているはずの唯香の靴がなく帰った様子もないように思えた。
そのことから目隠ししてきた相手は唯香だとわかる。
「何してるんですか、唯香さん? 」
手が僕の目から離れたタイミングで振り返る。
予想通りそこにいたのは唯香。
少し頬を膨らませつまらなそうにしている。
こういう仕草は素直にかわいいと思う。
「こういうのは気づいても気づかないふりをするものだよ? 」
「君もまだまだ子供だね。まぁ可愛いから許したげるよ」
「ちょっと話があるからこっち来て」
どうやら断れないらしい。
何も言い返さず素直に従うことにした。
この人には噓をつけないことを知っているから覚悟を決めないといけない。
柚に話したことと同じことを唯香に説明しなくてはいけないかもしれないと思うといやな気持ちになってしまう。
それはひとまず置いておき、近くのファミレスまで移動しながら頭をフル回転させてこの人と戦う準備を整えなければならない。
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