ボス戦開始?

 一度軽く息を吸い吐き出す。

少し落ち着いたところで振り返ることにした。


 「ほんとに久しぶりですね、唯香ゆいかさん」


 後ろから話しかけてきたのは柚の血のつながった姉、九重 唯香。

僕たちとは2歳違いの高校3年生で長い黒髪。

顔は整っていてかわいいというよりは美人という印象を持つためお近づきになりたいと思っている男子は多くいるらしいがそれには障害がある。

理由として、生徒会長を務めているからかお堅く近寄りがたい雰囲気を感じているから。


 ただ、彼女のことを知っている立場から言えばそういった評価を受けていることが意外過ぎる。

距離感がおかしく会うたびにべたべたとかまってきていたからだ。

だから彼女がお堅いだとか近寄りがたいと思われていることに疑問を感じてしまう。


 そんなことを考えているいま、目の前で妹に対しすごい勢いで近づく。

その勢いのまま頬がなくなるんじゃないかと心配になるくらいすりすりしている。

本気で嫌そうな表情をしている柚と満足そうにしている唯香。


 柚には申し訳ないが美形の姉妹がべたべたとしている様子はかなり絵になる。

近くの歩行者もその様子を見て口を緩ませてほほえましく見守り和んでいるみたいだ。


 そういった暖かい目線以外によくない視線を向ける人もいて気分が悪い。

じろじろと二人を見ては「えろっ」や「どっちがタイプ? 」のようなことを二人に聞こえるくらいの声で話す輩もいる。


 その中には二人に近づこうとする人もいた。

ナンパ目的なんだろうなと想像できたため、それを阻む。

わざと彼女たちの前に立ち話をする。

いくつかの舌打ちが聞こえるも気にしないふりをして続けようとした。

その瞬間、唇に柔らかい感触が伝わる。


 唯香の唇が僕の唇と重なった。

僕の頭は真っ白になりその場で数秒間呆ける。

なにか柚が言っている気がするも一切頭に入ってこない。


 (柔らかっ、っていうかこれってキスなんじゃ? )


 いろいろな感情が一気にわいてくる。

冷静さを取り戻そうと必死に考えようとするも考えがまとまらない。

それもそのはず、だって今のが僕のファーストキスだから。


 少し頭が働くようになって周りが何を言っているのか入ってくるようになった。

柚がかなり怒ったように唯香に迫っている。

彼女は謝るような動作をしているものの笑っていた。

それが柚の怒りをさらに大きくさせる。


 僕が見ていることに気づくと怒りの矛先は僕に向く。


 「優希も優希だよ。なんでよけなかったの! 」


 かなり理不尽に怒られた。

柚を何とかなだめようと唯香はいろいろとするがすべて無意味。

むしろますます怒っているように思う。


 ふと自販機が目に入ったので飲み物を買うことにする。

オレンジジュースとアップルジュース、グレープジュースの3本を買いオレンジジュースを柚に手渡す。

唯香にどっちがいいか聞くと「アップルジュース」と答えたのでそれを渡し、自分は残ったグレープジュースを持つ。


 近くにあった公園のベンチまで歩き3人並んで座る。

隣に座った柚にじーっとにらまれている気がするが気にしない。

何で真ん中に挟まれたのかは考えるまでもなくわかる。


 柚の視線が外れることはなく何となく居心地が悪い。

それを壊したのは意外なことに唯香だった。


 「で、あれだけ怒ったってことは二人は付き合ってるの? 」


 そう、確かにさっきまでの居心地の悪さはなくなった。

その代わりに別の気まずさが生まれプラスマイナスゼロになる。

いや、どちらかと言えばマイナスになったというべきかもしれない。

ただ、同時に気になっていたことでもあるため柚の出方を見るために黙って下を向く。


 極力自然さを意識しているが内心かなりざわついていて、本音を言えば今すぐここから逃げ出したい。

その気持ちをぐっと抑えその時を待ちながら心の中で本音を大声で叫ぶ。


 (最悪な空気だよ!早く家に帰りたい。ってかもう帰っていいかな?)


 少し気持ちが楽になった気がするも、ストレスを感じているからか時間の流れが遅く感じる。




 


 

 





 



 


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