三人に対する違和感
学校に着いたところで取っていた柚の手を離す。
肩で息をしながら何か訴えたそうに僕を見る。
何が言いたいのか気づいていないふりをしながら近くの自販機に向かい水を一本買い彼女に渡す。
「いきなり走ってごめん、これお詫びとして受け取って」
僕の手から受け取ってすぐキャップを開け水を飲む。
一気に半分近く飲みキャップを閉め僕に押し付けてくる。
「半分でいいからあとは飲んで」
押し付けられていた水を断るように彼女のほうへと突き返す。
柚も柚でそれを返してくる。
何度か繰り返したあと強制的に水をとり僕のカバンを開きなかに入れた。
「いいから持っといて! 」
いつもより強い口調と態度でいう彼女。
柚は意外と頑固なところがあり、こうなると折れるしかない。
諦めて受け取っておくことにしよう。
「優希?何してるんだこんなとこで」
聞き覚えのあるその声に肩がびくっとする。
この声は奏多だ。
振り返って確認する必要はないが、振り返るとやはり奏多だった。
その隣には見慣れた姿がもう一つ。
奏多がいるところに必ずと言っていいほどいる存在。
僕の好きな人、鈴だ。
(やっぱりかわいいなぁ)
どこかに思考が飛びかけるのを何とか我慢し、この状況でとるべき行動を考える。
いまは最悪なタイミングであると同時にある意味最高なタイミングだ。
ここであの手をつかうことにしよう。
柚のほうを見ると奏多のほうを見ている。
さっきの強気な行動から一転し、恋する乙女モード。
いまからしようとしていることは諸刃の剣だ。
うまくいけばいいがたぶん無理だろう。
だからといってやらない理由にはならない。
柚の左肩を持ちグイっと僕の方に寄せる。
「何って彼女と話してただけだよ? 」
柚がびっくりして声を上げそうになるのを止めるように耳元で囁く。
「ごめん、協力してくれる? 」
「理由はさっきのと一緒に後で話すから」
柚が頷くのを確認し、奏多の目を堂々と見る。
彼は何とも言えない顔をして、彼の隣にいた彼女は前回とは違う反応をしていた。
僕の記憶が正しければこの前柚が僕らのクラスに来た時は確かに反応していなかったはず。
でも今回は明らかに反応している。
彼、奏多のほうを心配そうに見つめているように思う。
前に自分のなかで引っかかていた何かの正体に気づく。
もしこれがあっているのだとすれば、なぜ二人はそういうことをしているのかがわからない。
何らかの事情でそうしなくてはいけないのか?
その疑問で頭が支配されていく。
何とかしてそれを知る必要がある。
ただ、いまはそれよりもやるべきことがあるのでそれを優先。
これで嫉妬してくれれば儲けもの。
今朝、わざと周りに聞こえるように話したのはこのため。
噂という形で流れるとおいしいと思っていた。
いつか彼らに届く。
そうなったときに意味を持たせるための布石。
結果としてそれは意味のない行為となった。
本人が目の前にいるのだから直接伝える方が圧倒的にいい。
こうして反応を確認できたのも個人的にはかなり大きくラッキーだ。
ここでさらに攻めておくことで付き合っていると誤解させられればより効率的に動くことができる。
自分のカバンを開け水の入ったペットボトルを取り出す。
キャップを開け水を飲む。
この水はさっき柚が半分飲んでいたものだ。
話しかけてきた時間的にはあのやり取りを見ていたはず。
口につけて飲んでいたものを飲む。
その行為はいわゆる間接キスになる。
恋人同士でなくとも普通にすることではあるが、ある程度の関係値がないとしない。
それも異性相手となると誤解する可能性が高く、運よく僕と柚の関係性を二人は知らないはず。
一気に残りの水を飲みキャップを閉めながら二人の様子を再び伺う。
奏多は何も言わずに靴箱の方に歩いている。
彼についていくように鈴はすぐ後ろを歩く。
とりあえずはこれでよかったかと罪悪感を感じながら柚に声をかけようとする。
彼女は顔を手で隠していたが耳が真っ赤になっている。
何かが恥ずかしかったのか顔を隠したまま彼らと同じく下駄箱に向かう。
ぼくだけがその場に取り残され、何が何だかわからない。
彼も彼女も、三人とも何か変だ。
違和感を感じながらほかの生徒と同じく靴箱へと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます