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 気が付いたら校門の所で息切れをしていた。


「ちょっと、由香!大丈夫?!」


 顔を上げると、奈々が心配そうな表情でこちらを見ている。


「奈々…」

「大丈夫?息荒いよ」

「…ちょっと、走ってきたから…でも、もう大丈夫…」

「そう言えば、今日って時田先輩の部活最終日だったよね?手紙は書けたの?」


 奈々の顔を見てホッとしたのか、ようやく息が整ってきた。


「うん。昨晩書き終えて、さっき、手渡してきたんだ。凄い緊張したぁ〜」

「渡せたんだ!良かったね!それで、先輩は何か言ってた?」


 ようやく冷静さが戻ってきた。

 手紙を渡すことは出来たが、先輩の顔をしっかり見ず校門まで走って来てしまったから、実際時田先輩とは殆ど会話をしていないことに気付いた。しかし、私の中では何の後悔も無くや達成感で満たされていた。


「実は、緊張と恥ずかしさで、手紙を渡したら、そのまま逃げるように走ってきちゃった」


 私の言葉を受け、奈々は「何をやってるんだか」という呆れた表情ではあったものの、優しく背中に手を添えて、一緒に笑ってくれた。


「由香にしてみたら 手紙を書いて、時田先輩に直接手渡しする、それだけでも勇気がいる事だよね。凄いね、由香」

「…そんな事ないよ。でも良い経験したなって思うし、時田先輩…遠くから見ていた時、何だか大人びていてね。一瞬 近くて遠い存在に思えたんだ」


 時田先輩は背が高く、カッコいい…憧れの人だった。廊下ですれ違う度、ドキドキしていた。同じように時田先輩に憧れを抱いている女子生徒たちは気軽に声をかけているのを見て、ちょっとだけモヤモヤしたりもした。しかし、先輩は誰に対しても優劣を付けず、気さくに会話をしていた。そんな先輩に、いつしか話してみたい。自分の言葉で、声で想いを伝えたいという願望が生まれた。

 ようやく念願叶って時田先輩と2人きりになれたのは嬉しかったが、目の前にいた時田先輩は言葉を選んでしまうくらい色気があり、同じ高校生と思えない、今日までの学生生活の中で得られた達成感と共に もうすぐ卒業し、大人として社会へと歩み出す覚悟を決めた【男性】を垣間見た気がした。



「…ところで由香」

「何?」

「時田先輩への初めてのラブレター、何て書いたの?」


 奈々の悪戯っぽい微笑みが私の顔を覗き込んだ。 一瞬顔が赤らんでしまったが悟られないよう満面の笑顔を奈々に向けた。


「ヒミツだよ〜!」


 奈々の不意をついて、笑いながら走り出した。

 駅から自宅へ続く道の途中の坂道。私は奈々と笑いながら駆け登った。

 既に夕日は沈み、辺りは暗くなっている中で私と奈々の笑い声だけが響いている。


 私も来年で卒業する。奈々と笑い合ったり出来るのもあと一年とちょっとだ。

 奈々とは中学校からの付き合いとはいえ、いずれ別々の道を歩む事になるかもしれない。でも今日の事…時田先輩に向けて初めてのラブレターを書いて、手渡した事を奈々はこの学校で唯一知っている。そして私を励ましてくれた。それは今の私だけでなく、これからの私にとって かけがえの無い時間と存在だと、胸を張って言える。


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