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 時田先輩にとって高校生活最後の部活の日。

 広々としたグランドで時田先輩とそのチームはボールを追いかけ、ゴールを目指し走っていた。

 グランドに響く部員や監督たちの掛け声に背中をを押されたのか、先輩は更に走る速度を速め、積極的に攻めていく。

 シュートを決めた! 

 ネットが揺れた。 

 結果は時田先輩チームの勝利。

 グランドのネット越しに試合を見ていた私もホッと胸を撫で下ろし、心の中でガッツポーズをつくった。


 試合が終わってチームメイトやマネージャー、顧問の先生から激励の言葉をかけられたり、談笑する時田先輩の姿は同じ高校生なのに、どこか大人びていて、何だか遠い存在のように見えてしまった。

 

 さっきまで試合が行われ、歓声が飛び交っていたグランドが嘘のように辺りは静まり返った頃、ロッカールームから次々と着替えや片付けを終えた部員たちが出てきた。

 時田先輩はいつも同級生や後輩らと帰る事が多いみたいだが、今日だけは一人で出て来て欲しい。他に人が一緒にいる中で声をかけるのは気まずい。

 何人かの部員がロッカールームから出てくるのを見送り、しばらくして1人の長身の男子生徒が出てきた。時田先輩だ。 

 その姿を見た瞬間、思わず駆け出していた。


「時田先輩っ!」


 自分でも驚くくらいの声で先輩の名前を呼んでいた。


「君は?」

「…2年1組の大崎由香です。ちょっとだけお時間良いですか?」

「大丈夫だけど」


 周囲に先輩と待ち合わせしている生徒たちの気配は無い。チャンスだ。


「…あ、あの、…今日、部活最終日ですよね。お疲れ様でした!先輩が三年間サッカー部で活躍している姿を遠くからですが…見ていました。…いつも、頑張っている先輩の姿に励まされていました。…もうすぐ卒業されてしまうということで、先輩への想いを手紙に書きました。…どうか、読んで下さい!」


 昨晩まで徹夜して書いた手紙を時田先輩に差し出す手は震えていた。果たして受け取ってくれるだろうか。


「わざわざ手紙書いてくれたの?ありがとう。家に帰ってからになるけど、必ず読むね」


 それまで自分の手にあった手紙の感触が、すっと離れた。受け取ってくれた。

 先輩の顔を真っ直ぐ見たいのに、真っ赤になった顔を見られたくなくて俯いてしまう。

 沈黙が苦しくて、先輩に一礼すると、逃げるようにその場を走り去った。

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