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「…時田先輩…」
時田先輩はサッカー部のエースで、背も高く、健康的な色黒でハーフの様な顔立ちをしており、将来はプロサッカー選手で間違い無い、と周囲も噂するくらいだ。カッコイイからといって偉そぶることも無く謙虚で おまけに勉強も出来るから校内での人気はダントツで…だから熱い視線を送る女子生徒も総勢何人いることか。
考えても埒があかないし、自分が惨めに思えてしまうから、他の女子生徒たちの存在は考えないようにしていた。
だからラブレターも手渡すタイミングは 皆がプレゼントや手紙を渡すであろう卒業式ではなく、部活の最終日である来週、部活終わりに渡そうと考えていた。だが未だに伝えたいことが纏まらず、日にちだけが迫っている。
ふとスマホの通知音が鳴った。同じクラスの奈々からLINE電話だ。
『やっほ〜!今何してる?』
「いま、ちょっと、勉強してて…」
『えっ?!アンタが勉強?! 珍しいね〜』
奈々とは中学校からの付き合いで、私の性格は勿論、勉強嫌いな面もよく知っているから、誤魔化そうとしても結局見抜かれてしまう。
『アンタが真面目に勉強する訳ないじゃん。本当は何してたのぉ〜?』
「…実は、時田先輩に…手紙、書いてた」
『えっ!?時田先輩ってライバル多いのに凄いね! やっぱ卒業式に渡すの?』
「ううん、卒業式は手紙とかプレゼントを渡す人が多そうだから、来週の部活最終日に渡そうと思ってるんだ」
『おっ!賢いねぇ〜』
冷やかすような口調だが、奈々は恋愛関係の話や内緒話を他人に口外したりはしないし、どんな時でも私を応援し、真摯に相談に乗ってくれたりもしてくれた。だからクラスメイトとはいえ、他には中々言い辛い時田先輩へのラブレターの事も奈々には打ち明けられる。
『それで、ラブレターを渡して告白するの?』
告白…そんな事考えてもいなかった。ただ自分の思いを書き溜めた手紙を時田先輩に渡すことが出来れば…それしか考えていなかった。
『えっ!?告白しないの?普通はラブレター渡して、「好きです、付き合ってください」とか告白する流れじゃない? ラブレター渡すだけ?
あっ!それかラブレターに告白の言葉を書く、とか??』
確かに奈々の言う事も理解出来る。
自分の思いを書き綴った手紙を相手に渡し、気持ちを告白する…しかし私はそこまで考えていなくて、ただ初めて書いたラブレターを時田先輩に受け取って欲しいという想いしかなかった。
『…でも、勇気を出して初めて書いたラブレターを渡したって気持ちは凄く大事だけど、結果的に受け取る相手である時田先輩がどう思うかだよね。時田先輩はモテるし、好きって言葉や熱い視線を常に浴びてると思うんだ。そんな中で、告白をせず、ラブレターだけ渡してくる人って逆に新鮮に映るかもね』
奈々の言葉に私は少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。
ラブレターを書き、相手に渡す。気持ちを言葉にして伝えるのは大事だか、もっと重要なのはどれだけ相手の心に残るか。時田先輩がこうしたラブレターを渡してどう思うにしろ、初めてのラブレターを勇気を振り絞って書いて、手渡した事を片隅にでもいいから憶えていてくれれば、嬉しい。私の思いはそれだけだ。
「奈々、ありがとう。何か吹っ切れたよ」
『頑張りなよ!』
奈々に背中を押され、通話を終えた。
改めてレポート用紙に視線を戻すと、書き殴った言葉たちが所狭しと散らばっていたが、私はそれらを見渡しもう一度自分自身に問いかけてみる。
私は…時田先輩に何を伝えたいのか…と。
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