恋文-koibumi-
橘花あざみ
1
何度も書いては書き直し、また書いては書き直す…同じことをもうどのくらい続けているのか、自分自身でも分からなくなっていた。
勉強も宿題もそっちのけでA4のレポート用紙には、これまで書き綴った言葉達が行間、升目も構わず散らばっている。
ふと足元のゴミ箱に目をやると、破いたり、丸めたりして捨てたレポート用紙の塊がゴミ箱をはみ出してしまっていた。
私はそんな光景にレポート用紙を無駄にしてしまった罪悪感や空虚感のようなものを覚えながらも再び視線をレポート用紙に戻した。
『時田先輩へ
初めての手紙で失礼します。2年1組の大崎由香です。
もうすぐ先輩とお別れですね…』
何とかここまで書いたものの、その先に続く良い文章が思いつかない。書いても気に入らない。
初めて恋文(ラブレター)を書いて、渡す相手 時田先輩は私の一つ上のクラスでもうすぐ卒業してしまう。だから部活の最終日になる来週、部活終わりの先輩に思いを書き溜めたラブレターを手渡すことにしている…のだが、肝心の伝えたい思いがどうしてもうまく纏まらない。
「…宿題もあったんだ…」
ふと思い出した。
ラブレターの文章を考えるのに夢中になっていて、数学の宿題の存在を忘れていた。宿題だけではない。明後日には歴史のテストもあるから、その勉強もしなければ…。
私はあまり勉強が得意なほうではないし、宿題もテスト勉強も大事だが今は先輩に渡すラブレターの方が気になっていてそれどころではない。
「誰か代わりに宿題やテスト、やってくれないかなぁ〜」
馬鹿馬鹿しいのはよく分かっている。だが今の私の机の上はどう見ても勉強モードではないくらい、レポート用紙が散乱しているし、これらを退けて改めて勉強…というモードに切り替えるのはかなり難しい。だからといってこのまま宿題もやらない、勉強もしないでいるのは流石にまずい。
渋々レポート用紙を退けて勉強スペースを作ったものの、直ぐに集中出来るはずも無く、視界は問題文を見つつも、頭の中は時田先輩へのラブレターの内容でいっぱいだ。
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