第7話 縺薙隱縺縺阪縺励◆縲
――12時55分。
試験会場には受験生が再結集していた。シエタは、他の受験生たちと異なる緊張感に包まれていた。
頭の中に、はっきりと声が響いた。
「聞こえますか? 私の声に過剰に反応しないように……」
(この声、周りの人に聞こえてないよね?)
シエタがハラハラしていると、くすくすと微かな笑い声。
「安心してください。この声は貴方の頭の中にしか届きません。いわば“憑依”。“思考回路の共有”ですから、外から見ても分からないです」
(へえ……)
「貴方への憑依は、手帳が近くで開いてる間だけ可能です。開いていれば、それがカバンの中でも問題なさそうですね。この状態で、私も試験を手伝います」
(これって…、その、一応カンニングですよね…?)
尋ねながら、「いわゆるカンニングか?」とシエタは自分でも疑問だった。今の彼女に、外から見て不審な点はない。爪に文字列を仕込んでいるわけでも、耳に通信機をつけているわけでもない。
「さあ、どうでしょう? そう見えますかね?」
耳元で精鋭はくすくすと笑った。
悪どい話をしているうちに、また試験用紙が配布され、机の上にひらりと着地する。
「第二試験開始まで、あと1分。ベルの音を以って開始とする」
試験管のメルがそう告げた。シエタにさらなる緊張が走る。ただ、第一試験の時とは違う緊張感を抱いていた。
例えるなら、潜入捜査や諜報活動だった。
……ごーーん、ごーーん……
「試験、開始!」という宣言と共に、皆が一斉にペンを持った。
※
(えっと、問の一は……)
「くすっ、この感じ懐かしいですね」
緊張するシエタに反し、脳内の声は呑気だった。こうしていると、まるで彼女の人格がいくつにも分裂したように錯覚する。ただ、その騒がしさが緊張を少しほぐした。
『問1
任意にスペルを並び替えても、詠唱時に効果があるスペル式呪文をひとつ提案し、そのスペルを口語発音序列順に並べなさい。ただし、呪文スペルは5字以上とし、効果の内容は問わない』
(うわ何この問題…? ぱっと見だと凄い大変そう…)
「5,6分もあれば解けそうですね」と精鋭。
(ご、5,6分で!?)
「スペル式呪文ありますよね。言語的な意味のない発声で使う呪文です。それで、最小単位の2スペル呪文を一つ作ります。例えば――」
それから、精鋭が問題の解き方を誘導して、シエタはぎこちなく解答を記していく。そうして程なく、シエタも解法に気づいた。
(…あ、なるほど! スペルの一部分だけ効果があれば良いってことですか)
「ええ、そうです」
シエタが答えを記入すると、問題文と回答が溶けるように消えて、代わりに次の問題文が浮かぶ――他でもない試験用紙が、彼女の答えを「正解」だと判断したのだ。
「くす、このシステムは解答が合ってるか分かるから、悪いことばかりじゃないですよね。少し、実力者優位のシステムかもしれませんが」
(“少し”…かな?)
とシエタは訝しむ。
つまり「どんな問題がどんな順番で来ても問題ない」というレベルの実力者を見つけ出すための方式なのである。
やがて第二問の問題文が表示されると、彼女は目を通した――
※
――試験官のメルは、受験生の視界すべてを監視していた。
試験会場の「時計」または「メルの瞳」にそれぞれ細工が施されており、どちらかを見た者は魔法によってメルに視界を
(うん?)
メルは、ぴくりと首を動かす。第一試験を経て、受験生の中で誰が「受かりそう」で、誰が「落ちそうか」を概ね把握していたが、そんな自分の中の下馬評を覆すダークホースが、破竹の勢いで問題を解くのを見つけた。
(……早い。F-1064、シエタ・ライト? おかしい、第一試験で問2すら完答できなかった雑魚だったのに)
メルは自身の目でピントを合わせて、シエタに視線を向ける。一方で、もう一人の試験管、ギーギルもメルの動きに気付き――同じくシエタに行きつく。
(メル先輩が見てるのは……おや、あの子は今日大胆にも遅刻しそうになってたシエタさん? あの子、怪しいの?)
二名はアイコンタクトを図る。
ギーギルはごくごく小さな声で、空気の流れを抑えた発声で呪文を唱えた。
(――『おはいりなさい、扉の耳や』)
「盗聴の魔法」を発動すると、彼女の耳にシエタが聞いている音が届くが、ペンが紙の上を走る音だけだった。しばらく耳を澄ませたが、他に何も聞こえない。ギーギルは耳を掻き、首を振る。
それを見たメルは、意図を理解した。
(音系カンニングかと思ったが、“不正音ナシ”か。……隣の受験生の解答を他の方法で手に入れているのか?)
(確かに隣の子も解くの早いけど~…、解法がちょっと違うかな? こんな速さで問題を解く受験生が二人もいるとは、末恐ろしっ)
(シエタ・ライトは明らかに怪しいが、外部から情報を得た様子はない。不自然に解答速度が変わったのに)
(五感以外の方法で情報を得てるとか? でも視聴覚以外じゃ得られる情報は限られるし…。まさか心系?)
シエタは試験管二人から集中監視されていた。しかしカンニングが摘発されるはずもない。シエタの不正情報の出どころは他でもない彼女の頭の中。カンニングとして摘発など原理的にできない。
はずだった。
(ならばあの子には悪いが、1秒だけ「思考」を見せてもらおう。暗算は面倒だが、確認がいる――135/(571+561(Σf(n)22))Sπ……)
メルは目をつむる――それを見て、ギーギルはぎょっと目を剥き、顔を引きつらせる。
(いやちょちょ、メル先輩!? まさか呪文じゃなくて算歌魔法を…!? 試験中に暗算するんですか?! マジかい、いま試験中だよ、あんた試験官よ!)
(……eq1103+n!/44∧n1.t1、『混沌算歌・心鏡』!)
メルが目を開くと、音も光もなく魔法が作動する。そして試験問題を解くシエタの「思考回路」が、たった1秒だけ、メルの脳内に投影された……
Σ1nXu(n)g(x/n)EqAΣ1<Nxu(n)Σ1mnXf(x/mn)EqΣunΣΣ1m(x/r)Σf(x/r)ΣΣ[mmrxrEqmnf(x/r)Σf(x/r)ΣΣ[]#mEqr/n]EqΣfXRΣn#"|ru(n)繝ΣnΣn峨x/rεRE隱Σnュ縺ソ霎1+2639逋コ(x/r)Σf(逕溘縺セ縺吶(x2/9801/r)Σf(繧mΣfX∞ΣEqr/n]ォ縺縺9∞Σn0+2■■■6nn」縺溘j縲■■■√ユ/r)ΣΣ[]#mE繧ュ繧ケΣn繝医r諢1∞Σn0丞√2/峙峨隱x/rεREュ縺ソn)Σ1mnXf(■■n)Eq霎霎■■9/29∞∞Σn0+26nnシ繧薙蝣+2639逋繝峨隱ュ縺ソ霎シ2√2/r)Σ[/繧薙蝣エ蜷医逋逕溘縺u(n)Σmn)Eqセ縺吶繧ォ縺縺1+2639」縺溘j縲√繧ュ繧ケ繝医r諢丞峙縺励コ逕溘2縺薙?譁?ォ?縺ッ隗」隱帙s縺ァ縺励◆縲溘j縲√ユ1+2639繧ュ繧ケΣfr諢丞縺ソ霎シ801∞Σn0:繧縺薙?譁?ォ?縺ッ隗」隱ュ縺ァ縺阪∪縺帙s縺ァ縺励◆縲セ縺吶繧溘j縲√繧ュ繧ケ繝医r諢ュ繧ケ繝0n/nn443医r諢■■■丞1∞Σn0繝ュ縺ソ霎シ繧薙蝣エ蜷医逋コ逕√√縺セ縺Σfx/rεRE吶繧ォ縺縺」縺溘j■縲√繧ケ繝医繝n0:4」縺溘j縲√ユ1+2639繧ュ繧ケΣfXR繝医r諢丞峙縺励繝峨隱ュ縺ソ霎シ801∞Σn0:繧薙蝣エ蜷医逋コ逕吶繧溘■■■j縲√繧ュ繧ケ繝医r諢■■■峙縺励ュ繧ケ繝0n/nn443医r諢丞1∞Σn0繝ュ縺ソ蝣エ蜷医逋コ逕√√√√溘縺セ縺Σfx/rεRE繧ォ縺縺見てる?縺溘j縲√繧ケ繝医医繝医繝医r諢丞峙ケ繝医r縺薙?譁?ォ?縺ッ隗」
「――ァッ!??!」
(な、ナ、逋コ逕ナニ?■コレ吶繧ォハ…?)
小さく声を漏らして脂汗を滲ませ、一歩後退するメル。
頭の中が黒いクレヨンに塗りつぶされたように朦朧として、精神汚染を受けたようにグラグラとする。1秒だけ……たったそれだけシエタの心を読んで、処理しきれないほどの情報量に飲み込まれたのだ。
(な、な■繝だあの子…?!思考速度が異常だ…峨!隱 本当■人間か…!?繧)
思考に陰りが掛かった脳を抱えて、試験会場の中で一人、メルは強い恐怖に呑まれていた。
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