転生! 新たな人生ーガイアルド王国編ー
龍雅、転生
暗くジメジメとしたどこか、
(さっむ! ……ど、どこだここ!?)
周囲を見渡してもあるのは暗闇と、淡く光る水だけ。自分が横たわっていた場所を見てみると、ひと際強く輝く水溜まりのような場所があった。
(俺はここに倒れて……おかげでずぶ濡れじゃねぇか。いや待て! 俺はたしかあの野郎に銃で撃たれて……公園で)
「じゃあここはどこだ? 病院……じゃねぇよな、絶対に。傷は……ない!? どうなってやがる?」
混乱しながらも立ち上がり、もう一度よく周囲を見渡す。目が慣れてきたのか、先ほどよりも壁の様子が少しだけだが分かる。人工的に作られた壁には見えず、ごつごつとして苔が生えたそれは明らかに天然の物であった。そこで龍雅は一つの推測を立てる。
(サイレンが鳴ってたから、サツがあの後来たのは間違いない。そしてここはどう見ても病院じゃないし、墓場って雰囲気でもない。死体をこんな所に放置する理由も見当がつかねぇ)
(極めつけは銃で負った傷がないこと……つまり)
「あの世……」
結論を出し、彼は自分が辿ってきたこれまでを振り返る。
両親と別れた小学生時代。
親代わりの親戚を受け入れられず非行に走った中学時代。
まっとうに生きようかと思ったが、完全には抜け出せなかった高校時代。
そして、半ばやけになって好きに生きた数年間のフリーター時代。
そんなこれまでを思い出し、自嘲気味に呟いた。
「それも地獄か。まぁ、こんなのが逝く先なんぞ決まってらぁな」
「そんじゃ……閻魔様にでも会いに行くか」
(にしたってさみぃ……地獄ってのは暑いもんかと思ってたが)
寒さに少し震えながら、暗闇の中をゆっくりと歩き出した。
壁伝いに進み、大きな段差があればよじ登る。幸いにも大きな道は一つだけで、特に分岐もしていない。更にあの淡く光る水がそこら中に流れており、完全な暗闇という訳でもなかった。
(壁をよじ登ってもあんまし疲れねぇな。やっぱ幽霊ってのは体が軽いのか)
「しっかし光る水ってのは気味の悪い……まぁ、死人にゃ関係ないか」
暗闇を進み続けていると、煌々と輝く小さな川とも呼べる流れがあった。その流れを遡るように目で追っていくと、水の発する輝きとは違う輝きが差し込んでいる。
(あの感じは日の光……外か。この洞窟みたいなのも思ったより深くはなかったな)
緩やかな坂を上り、だんだんと出口へ近づく。果たして外に広がっているのはどのような景色なのか。そんなことを考えながら光の中へと進み、洞窟を抜けた。
目が光に慣れ、だんだんと外の景色がはっきりと見えてくると龍雅は驚きのあまり声を上げた。
「な、なんだこりゃ!?」
そこにあったのは荒涼とした大地でもなければ、溶岩の煮えたぎる地面と真っ赤な空でもない。青い空に青々とした植物が辺りを覆いつくしている森の中であった。空気は澄み、涼しい風が肌を撫でている。見方によっては地獄とは真逆の、天国とも思える環境がそこにはあった。
「じ、地獄の景色か? これが……?」
(まさか天国に……ありえねぇ。俺が天国に逝けるわけがない。だとすりゃここはどこだ?あの世ってそんなに種類あったか?)
(いや、生きてる人間には分からんのがあの世だ。これが本当の地獄なのかもしれねぇ)
「わけわかんねぇが……とりあえず、進むか」
彼は混乱が収まらない思考をいったん放棄し、歩み出した。
鬱蒼とした森の中、川の流れを追い、草を掻き分けてどんどんと進んでいく。道中で見たことのないような動物を見かけもしたが、あの世のものだろうと彼は気にも留めなかった。進めば進むほど川の流れは勢いを増し、大きくなっていく。
(流れが強くなったな。そろそろ見晴らしの良い場所でも見つけたいが……)
(しっかし死ぬ前と同じ服着てて良かったぜ。全裸であの世一人旅はごめんだ)
そう思いながら茂みを抜けた時、流れから少し外れた方向にある切り立った崖が視界に入った。崖の側面には縄梯子のようならしき物がいくつも掛かっており、彼はこれ幸いにと走り出す。
でこぼこした獣道を越えて岩壁までたどり着き、軽く引っ張り梯子の強度を確かめる。
「結構丈夫だな……誰だか分かんねぇが、ありがたく使わせてもらうぜ」
ゆっくりと梯子を登っていき、一番高い木を越えて少しした辺りで振り向き麓の景色を確認する。そこにあったのは、またしても彼の予想を大きく覆す光景であった。
広大な平野に家らしきものが無数にあり、その奥には灰色のいかにも城といった感じの建物が鎮座している。周囲は大きな壁と堀で囲まれており、目を凝らせば人影らしきものがかすかにではあるが見える。
そして壁の周囲には、壁の中の民家とは違う様式の建物と畑がポツポツとあり、農村のような雰囲気を彼は感じ取った。
「あれは全部民家か? それに奥のあれは城……城?」
(あんな感じの遊園地あったよな……いや、地獄に遊園地ってなんだよ)
(まったく、進めば進むほど訳の分らんものばっかが見つかるな)
(……あそこの川に沿って進んで下山すれば、あの村みたいな場所に着きそうだな)
「とりあえず、降りて行ってみるか」
梯子を早々に降り、先ほど見つけた川に急ぐ。再び歩み進め下山していく中で、彼は一旦放棄していた思考を再び巡らせ始めた。
(日本とはかけ離れちゃいるが、明らかに人が住んでるって感じだよな)
(やっぱりここは地獄じゃねぇのか?というよりも……)
(人が住んでるなら、あの世ですら無いことになる)
(でもそんなことありえねぇよ。だって俺は死んだんだ)
(だとすりゃここ本当にどこなんだ?いったいなにが起こったってんだ?)
(クソッ! マジで訳が分かんねぇよ……)
(……人生、何が起こるか分からん。か)
「分からなすぎだ……おっちゃん」
そのまましばらく歩き、それまでの道とは違う明らかに人の手が加えられたであろう道を見つけた時だった。穏やかで静かな空気に満ちた森の中を凄まじい爆発音が駆け抜け、龍雅はその場で固まった。
(な、なんだ今の音!?)
「チッ! 事故か!?」
すぐさま麓へ続いているであろう道へ駆けだした。人とは思えぬ速度で山道を下っていくが、興奮している彼はそれに気づかない。ものの数分で麓に辿り着き、そこにあったのは……。
(燃えてやがる! 火事か!)
(やっぱり人が居る……助けねぇと!)
(クソッ! だが濡れてるとはいえこんな格好であそこに行くのは……!)
(……煙に気をつければ大丈夫か?)
「…行くか!」
彼は意を決し、燃え盛る炎の中へ駆けだしていった。
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