平凡魔族の武術学園、剣(魔法)無双

@サブまる

第1話 剣を抜く

「そ、そんな!! やめてください……っ!!」


 2000年以上の歴史を誇る学院グリエール。世界中の天才たちの集う学院だ。


 その実習中。


「お前にはこの部屋がお似合いだよ! ガハハ」

「せいぜい生き延びろよ? 無理だろうけどな!」


 小さな村の期待を一身に背負い、村のお金でこの学院に入学したグルーバ・アヤ・クレーロン。

 若き才能を秘めた、クレーの愛称で呼ばれる、小さな魔族の女の子である。


 小さいながらも幼少期、村の誰も手に負えなかったモンスターの集団を撃退した歴とした天才である。


 しかし、学院グリエールは天才たちの集う学院。彼女の実力は、下から数えた方が早いレベルだった。


 小さくて弱い。


 それゆえに、いじめの格好の餌食となったのだ。


 ダンジョンの主の部屋に閉じ込められたクレーは、必死に石の扉を叩く。


「おねがいでず……! おねがいじまず〜〜〜!! 村のみんなが待っでるんでず……っ!!」

「泣いてやがる! みっともねえ!」

「やっぱりお前みたいなやつは、この聖なる学院にいるべきではない! ここでモンスターに食われて死ね!」


 いじめっ子の声は、徐々に声が遠くなっていった。

 ぐちょぐちょになった瞳で、後ろを振り返ってみれば、既に戦闘モードに入った巨大なミノタウロスが映る。


 太古より封印されし牛の悪魔。実力者ですら迂闊には手を出さない怪物だ。グリエール学院の生徒といえども、さすがに勝てない相手だ。

 そこに学院でも弱い部類に入るクレーが入ればどうなるかは、誰の目から見ても明らかである。


「う……っ! いやだ……!」


 クレーも必死に逃げるが、狭い空間の中ではジリ貧であった。

 ミノタウロスの一撃で地面が揺れ、大きく体勢を崩したクレーは、顔面から床に倒れ込んだ。


「うぅ……っ!」


 ミノタウロスが突撃体勢をとる。絶体絶命、そう思った時!


『ああ! なんてことだ!? 人だ! そこの女の子! 頼む! 剣を抜いてくれないか?!』


 クレーの頭に若い男の声が響く。


「……え?」

『あの体勢に入ったミノタウロスは、もう進路を変えることはない! 横に走って、台座に刺さってる剣を抜いてくれ!』


 恐怖で震える足に鞭を打ち、言われた通り、急いで台座に走った。


「あっ! あった!!」


 サビでボロボロの柄を掴み、一気に引き抜く!


「……えっ」


 クレーの表情は絶望に染まった。

 クレーがあまりにも小さすぎたのかもしれない。台座に錆び付いてしまった剣は、びくともしないのだ。


 部屋の壁に突っ込んだミノタウロスも体勢を整え、既にクレーに狙いをつけている。


「抜けないっ!! 抜けないよ剣さん……っ!」

『大丈夫! 自分を信じろ!!』

「う、うわああ!!」


 重たく剣が動く。


『よおおおおし!! がんばれ! あと少しだ!!』

「あ゛あ゛あ゛!!!!」


 半分抜いたところで、剣が一気に抜ける!


「きゃあ!」

『間に合った!!』


 部屋が静まり返る。先ほどまで揺れていた床も、ミノタウロスの荒い鼻息も、聞こえない。

 勢いで尻餅をついていたクレーは、恐る恐るミノタウロスの方を見た。


「? 助かった……?」


 そこには、歪な脚だけを残し、完全に消し飛んだ『ミノタウロスだったもの』がいた。


『よく頑張ったぞ!』


 知らぬ間にクレーは、実力者ですら避ける怪物を、一人で倒していたのだ。

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