第6話

「ちょっと待ってよ!私は浮気された被害者よ!凛花を殺したのも高尾でしょ!私は関係ないわッ!!」

「姉貴が死ぬように仕向けたのは、お前だろ!ダークマッチングアプリにちゃんと詳細が載ってんだよ!」


 どういう事?まさか私も犯罪者として登録されてるの?何なのあのアプリ?自分で煽って、金まで取って、なのに勝手に登録するなんて!信じられない!


「私は別に凛花を殺す気なんか無かったわ。ちょっと懲らしめようとしただけよ。旦那と別れて慰謝料さえ貰えれば許すつもりだったのよ!」

「あのアプリを使ってそんな言い分が通用すると思ってんのか?あれは裏社会に精通した者だけが使う、呪われた殺人用アプリだぞ」

「はあ?呪われた殺人用アプリ?」

「そうさ。殺しの連鎖を生むアプリだ。目的は非道徳アウトローな人間どうしの殺し合いさ。あのアプリの開発者デベロッパーは既に殺されてるのに、何故かアプリだけが暴走し、まるで生きてるかのように勝手に更新されている。余りにもアプリ内の情報が不可思議すぎるので、この世の物じゃ無いって噂だ。だから使う奴は相当の覚悟を持って使っているぜ。その事を知らなかったのなら、とんだ大マヌケだな!」


 そんな……私は「自分の生活を害する人間を探し出すアプリ」としか聞いてない。この世の物じゃない呪われたアプリ?確かに冷静に考えたら凛花がトイレに入った事まで分かるなんて、常軌を逸してたわ。スマホの位置情報みたいに人工衛星の電波経由でもトイレに入った事まで分かるはずが無いもん。怪しげなアプリだとは思ってたけど、まさかそんなオカルト的なアプリだなんて……。


「蓮矢君!聞いて!そんなオカルトアプリに踊らせる必要は無いわ!殺し合いなんて止めて話し合いましょう!」

「姉貴は身を売ってまで俺を進学させてくれた。お前にとっては殺したいほどのクズでも、俺には掛け替えのないたった一人の家族だった」

「…………」

紗絵子おまえは姉貴が死んだ事を聞いても自責の念に駆られることもなく、せせら笑ってたんだろ?俺も紗絵子おまえみたいなクズが死んでも何とも思わない。むしろ死んだ方が世の中の為だと思う」

「あのね、こうしてる間にも世界中の何処かで誰かが死んでるのよ。いちいち人一人死んだぐらいで悲観してたら神経持たないわ。だいたい凛花あいつが死んだのは自業自得じゃない。逆恨みもいいところだわ」

「何とでも言え。作戦シナリオはもう始まっている」

作戦シナリオ?」

「俺は現在、梅毒の治療中だ」

「梅毒?……あんた、まさかッ!!」

「そうだよ。お前を指名して店に入り浸っていた理由はそれさ。既にお前にも移っている。お前のお腹の中の赤ちゃんにもな!早く病院に行った方がいいぜ。もう手遅れかも知れないがな……」

「あんたッ!分かってんの?態と性病を移したのなら立派な傷害罪よッ!」

「覚悟の上だ。既に俺もダークマッチングアプリに登録されている。さあ、殺し合いを始めようぜ!」


 警察にこの事を言えば私も捕まり、旦那から離婚を申し立てられても慰謝料も貰えないか……なるほどね……。


「姉弟揃って本当にクズね。仕方ない。分かったわよ。女だからって、なめんじゃないわよ。返り討ちにしてやるから」

「そうだ!いいこと教えといてやる。お前を狙っているのは俺だけじゃないぜ」

「はあ?」

「川北が今日退院した。あいつは今回の事件では被害者扱いなので逮捕されてない。そして川北もお前の存在を知っている。これは何を意味してるのか解るよな?」

「まさか!川北もダークマッチングアプリの存在を知ってたの?」

「そうさ。裏社会に精通した奴らが使うアプリだと言ったろ。あいつは元半グレのサディストだからな。お前のことを簡単には殺しはしないだろう。拉致って、じっくり甚振りながら殺す気だろうな。震えて待っときなよ。じゃあな」


 電話が切れると同時に私は舌打ちをした。

 苛立たしい。

 一人ならともかく、二人とは……。


 とりあえず病院に行って性病は治さないと。病気は凛花から旦那を介して移ったことにすれば良い。どうせ旦那にも移ってるだろうから。そして可愛そうだけどお腹の胎児は堕ろそう。今は妊娠してる場合じゃないし、蓮矢と川北の抹殺が優先だわ。


「ほんと、何で私がクズ共の相手をしないといけないのよ……」


 私はボヤきながらアプリを開き、蓮矢と川北を『お気に召さないファイル』に入れ、『サムズダウンマーク』を押す。既に二人は私を殺したいリストに入れてくれてるみたいだから、めでたくマッチングされたわけね。


 チャットに『早く殺りてえ』と、さっそく川北からメッセージが送られて来た。続けて『爆竹と有刺鉄線買ってきた』『面白い拷問思い付いたから楽しみにしてな』と、如何にもDQNそうなセリフも。

 何よ、爆竹に有刺鉄線って?有刺鉄線で縛り上げて、鼻やアソコに爆竹を詰め込む気かしら?馬鹿の考える事は本当、怖いわ。

 こんな馬鹿に殺られるもんか。

 絶対、先にぶっ殺してやる……。

 けど、川北こいつ相手に一人で勝てるかどうか……。


〔ピンポーン〕


 急にインターホンのチャイムが鳴り、ドキッとしたが、香夜が来る予定だった事を思い出す。そうだ。香夜に全部話して殺しを手伝ってもらおう。だいたい香夜があんなアプリ紹介したから、こんな事に成ったんだし、責任の一端は有るわよ。

 私は香夜だと思い込んでたからモニターも見ず、気怠い声でインターホン越しの来客応対をした。


「香夜?今、開けるわ!」

「デリバリピザです。ご注文のピザをお持ちしました」

「えっ?!」


 香夜じゃなかった。ピザ屋だ。

 そういえば香夜がピザを頼んでおくと言ってた。ピザとかパーティーとか、それどころじゃ無いんだけど仕方ないわ。

 私は玄関に向かおうとしたが……。


「いや、待って!違う……何時もの配達員の声じゃ無かった……」


 私はインターホンのモニターを見た。

 マスクをしてるうえ、深く帽子を被っているので顔は分からないが、かなり大柄な男だ。小柄な蓮矢では無いのは確かだが……似ている。さっきアプリで見た写真の男に体格が似ているのだ。私を殺したがっているDVクズ男に。


「川北の奴……さっそく殺しにやって来たの?……」

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