第4話
凛花の詳細ページには携帯番号とメールアドレスが5つ有った。それぞれの交際相手用にスマホを5つ持っているのだ。呆れて物も言えない。
私は5つの中から高尾とやり取りしているスマホの携帯番号を押した。高尾用のスマホの番号は、高尾しか知らないみたいだから、私がかけても凛花は高尾だと思って出るはずだ。
番号を押す手が武者震いで少し震える。
番号を押し終わり、スマホを眺めながら相手が出るのを待ったが、コール音が7回鳴っても声は返って来ない。非通知が警戒されたかと思って諦めかけた時――
「はーい、裕ちん!どうしたの?さっきから何回もかけて来て、急用?」
出た!間抜けな鼻にかかった如何にも馬鹿そうな女の声だ。本気で虫唾が走る
「こんばんは。はじめまして、山本凛花さん」
「えっ?あんた誰?」
「倉田明彦の妻、倉田紗絵子と言います」
「……どうやってこの番号を?」
「さあ?それより何か私に言う事ありませんか?その為に電話させてもらったんですけど……」
「言う事?何を?」
「謝罪に決まってるでしょうが!!」
「はあ?何で?」
「しらばっくれんじゃないわよ!あんた、うちの旦那と不倫してるでしょッ?!」
「知らない」
「あら、そう。あくまで白を切る気ね。けどコッチは証拠掴んでんのよッ!土下座しながら慰謝料三百万寄越せば許してやるから、今すぐ――」
プツッ――
切りやがった。まあ良いわ。これで高尾からの電話も警戒して出ないだろう。その為に高尾とやり取りしているスマホの番号を選んでかけたんだから。
高尾の方は凛花が電話に出ないから更に怒りと不安で興奮する。現場に着けば川北と直ぐに大喧嘩だろう。凛花が素直に謝ってこちらの言う通りにしてれば、修羅場は回避させてやったのに。馬鹿な女。
「この後どうなるかワクワクするわ。現場に行ってこっそり覗きたいけど、流石にヤバいからアプリの報告を楽しみに待ちましょう」
私はダークマッチングアプリを開け、作戦完了のボタンを押した。そしてスマホを助手席に置き、車のエンジンをかけてゆっくり動き出す。
「ファーストコンタクトはこんなもんよ。これからもっと精神的に苦しめてやるんだから……」
私は復讐心を滾らせながら、明日のバイトで使う無香料ソープを買う為、ドラッグストアに向けて車を走らせた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
今朝は何時もより早く目が覚めた。すぐにスマホを見たが、何のメッセージも入っていない。凛花達は、どうなったのだろうか……。
昨日、ドラッグストアから帰った後もダークマッチングアプリからのメッセージは何も届かず、そのまま寝てしまった。
凛花達と高尾は鉢合わせせずに作戦は失敗したのだろうか?それならそれで何か連絡寄越せよ。
「まあ、いいか。住所も相手の行動も全部把握出来るんだし、いくらでも追い詰める方法は有るんだから……」
私はベッドから抜け出して二階の寝室から一階に下りると、掃き出し窓を全開にして朝の新鮮な空気を庭からリビングへと取り入れた。そしてキッチンで朝食の用意を始める。目玉焼きが焼き上がると同時に旦那が書斎からリビングにやって来た。最近、
「お、今朝は早いじゃないか」
「おはよ。今日は私も仕事だからね」
「ああ。例のテレアポのバイトか」
「そうよ。香夜が紹介してくれた所のね」
本当はホテヘルだけどね。旦那にはテレホンアポイントの簡単な仕事だと嘘をついている。旦那は自分の妻が風俗で働いている事も知らずに、のほほんと目玉焼きを食べだした。
何か浮気の件も有るし、
別れようかな……慰謝料ふんだくって、風俗で働く回数を増やせば、そこそこの生活は出来そうだし……。
そんな事を考えてる最中に着信音が鳴った。ダークマッチングアプリからの知らせだ。メッセージには『山本凛花の登録を削除』と書いてある。
登録を削除?
どういう意味?
私は慌ててダークマッチングアプリを開いた。そして『お気に召さない入りファイル』の凛花の詳細ページが無くなっていることに気付く。
いったい何がどうなったの?
まさか……いや!その、まさかだ!
私は慌ててスマホのニュースサイトを開いた。
そして『痴情のもつれか?男女が揉み合いに成り1人が死亡、2人が意識不明の重体』という見出しを見つける。
えっ?1人が死亡?誰か死んだの?
ニュースの続きには、こんな記事が……。
『昨日夜10時ごろ、市内のバーにて男女3人が口論の末に揉み合い、持っていた刃物で刺し合うという事件が有りました。この事件で山本凛花さん(25)が胸を刺され、搬送先で死亡が確認されました。一緒に倒れていた2人の男性も意識不明の重体。警察は男女関係のもつれと見て、男性2人の意識が回復しだい事情を聞く方針です』
凛花が……旦那の浮気相手が死んだ……。
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