第3話

 着信音が成り、私はアプリを開いた。アプリには『山本凛花、男と店に入る』というメッセージが届いている。だいたい予定通りの時間だ。あとは暫く待機して、2人が酔うまで待つ。過去の傾向から3時間はこの店に居るはず。


「10時くらいかな……」

「ん?何の話だ?」

「こっちの話」


 向かいのソファーに座り、呑気にテレビを笑いながら見ている旦那は何も知らない。あの凛花という女が今、男とバーで飲んでいる事を。


 凛花という女は本当に最低な奴だった。

 現在、凛花は私の旦那の『倉田明彦』を含めて五人の男と関係を持っている。昔からパパ活やギャラ飲みをやっていたみたいで、おそらくマッチングアプリで知り合った旦那とは金銭目当ての援助交際なんだろう。

 今、バーに一緒に居る『川北』という男が一応の本カレみたいだが、この男も中々のクズで、凛花以外の愛人が複数人居るみたいだ。しかも女癖ばかりか酒癖も非常に悪く、酒が進むと気が荒く成り、愛人達に対してDVなどの暴力沙汰を度々起こしているとのこと。まあ凛花とはお似合いのクズカップルではある。


「そうだ!ボディーソープ切らしてたんだ。ちょっと買ってくるね」

「こんな時間にか?記念日に貰った固形石鹸が有っただろ?あれ使っとけよ」

「液体しか使いたくないのよ。他にも買い物有るし、すぐ帰って来るから」

「俺、明日早いから先に風呂入って寝るぞ」

「どうぞ、ご勝手に」


 頃合いを見計らい、旦那をリビングに残したまま家を出た。夜の住宅街だから辺りの人気は少ない。私は近くの月極駐車場に向かって歩いている途中で、ある男に電話を入れる。相手の男はツーコルであっさり出た。


「ハイ、高尾です」

「あっ!高尾裕二さんですか?はじめまして、夜分に突然すいません!」

「どちらさん?」

「私、山本凛花さんの知り合いです」


 私は慌てている様子の芝居をしながら、『高尾』という男と電話で会話を続ける。


「凛花の知り合い?凛花の知り合いが、何で俺の携帯番号を知ってるの?」

「あなたに急ぎお伝えしたい事が有って、調べさせていただきました。じ、実は今、凛花さんは男と2人っきりでお酒を飲んでます」

「えっ?!まさか……」

「物凄く怖そうな男で、この後凛花さんが何をされるか心配で、それで電話を……助けてあげて欲しいんです!凛花さんの彼氏のあなたに」

「分かりました。ありがとうございます。すぐ行きますんで、場所を教えてもらえますか?」


 私は凛花が居るバーの場所を教えた。30分ぐらいで着くと高尾は言う。面白いぐらい予定どおりに事は進んでいく。


 この高尾という男は凛花が交際している男の一人だ。普段はおとなしいのだが、異常なほど嫉妬深くてキレると何をするか分からないタイプらしく、過去に3回も傷害事件で逮捕されている。そう。川北は『DV』で、高尾は『傷害』で、それぞれが害し系ダークマッチングアプリに登録されている危険人物なのである。この2人が最悪のシチュエーションで鉢合わせすれば修羅場は避けられない。山本凛花もただでは済まないだろう。これがダークマッチングアプリが教えてくれた凛花抹殺の作戦シナリオだ。


 駐車場に着き、車に乗り込むと同時に着信音が鳴る。ダークマッチングアプリから『凛花、トイレに入る』というメッセージが届いた。

 凛花は絶対に川北の前では他の交際相手からの電話は出ないから、このタイミングしかない。高尾よりも先に凛花とコンタクトを取らないと、作戦が失敗するかも知れないのだ。

 私はダークマッチングアプリの凛花の詳細ページを開けた。凛花の写真と名前の下には親指を下げた手の形、『サムズダウンマーク』が付いている。親指を上げた『いいねマーク』とは逆の意味だ。


「このマーク通り、地獄に落ちるといいわ」


 私はアプリで見つけた『殺したい相手』と、いよいよコンタクトをとる……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る